【インタビュー】MOSHIMO、「どこよ
りもポップで、どこよりもロックして
やろう!」

目の前で劇的に成長してゆくバンドを、リアルタイムで追うことができる至福。MOSHIMOの新作、4曲入りEP「支配するのは君と恋の味」は、骨太なエイトビートの疾走感がかっこよすぎるタイトル曲を筆頭に、まったく違う方向に振り切った4曲入り。岩淵紗貴(Vo&G)の恋愛経験から生まれた可愛らしいラブソングも、心のダークサイドに踏み入ったシリアスな曲も、どこを切っても赤い血のにじむ、とことんポップでいながら痛いほどロックな楽曲たち。ネガティブとコンプレックスをバネにどこまで高く飛べるか、MOSHIMOは今大きなステップを踏み出そうとしている。
◆ EP『支配するのは君と恋の味』ジャケット画像/ティザー映像
  ◆  ◆  ◆
■ 私にはバンドがあって、ライブという場所もあるから

■ 正気を保って歌っていられる
▲EP「支配するのは君と恋の味」初回限定盤


── 「支配するのは君と恋の味」は、しばらく続いたキャッチーなダンスロック路線とは違いますね。ガツン!とストレートな、豪快なエイトビートのロック・チューン。
一瀬貴之(Gt/以下、一瀬):初期衝動としては、僕が道を歩いている時に、女の子がかがんで靴紐を結んで、そのあとに水を飲み干すというさわやかな光景を見たんですよ。渋谷の、代々木公園の近くで。それを見て♪最後の一滴を飲み干した後に、支配するのは君と恋の味、という歌詞とメロディが出てきて、そこから広げようと思った時に、今までダンスロックが多かったけど、その光景自体がすごく素直な光景というか清涼感があってまっすぐな感じがしたので、アレンジもストレートなロックにしたいなと思って、エイトビートガツガツにしてみました。意図したことと自然に出たことの融合みたいな感じです。
── そういうのって時々あるんですか。曲作りセンサーがビビッと反応するシーンとか。
一瀬:ありますね。見た瞬間にパッと浮かぶことが多くて。それが出てくるのを待っています。今回も締切ぎりぎりで出てきたので良かったです。
岩淵紗貴(Vo&G/以下、岩淵):何気ない時にパッと出てきたもののほうが、自分の中に残るメロディとワードだったりするんで、忘れずにいられるんですよ。それを大事に広げてあげるのが、曲作りの中で一番優先してる部分かなと思いますね。
▲岩淵紗貴(Vo&G)


── その、イッチーの見た光景をもとにして、曲作りを進めていって。
岩淵:イッチーがメロディを作ってくれて、それから詞を書きました。片想いソングで、「命短し恋せよ乙女」とは違う角度というか。あれは、つきあってるのかつきあってないのか微妙なところで、でも「私の方が好きという思いが強いよね」という感じですけど、今回は「好きです。でも言えないんです」という、片想いの気持ちを書きたいなと思ってました。自分も、好きな人に素直に言えるタイプじゃないので。一個一個の言葉にいちいち反応しちゃって、喜んだり悲しんだりする自分がいたなーと思いながら書いた曲ですね。
一瀬:ポチの経験談が盛り込まれているので、この歌詞を変えたいって相談しても「変えたくない」ということがあったりして。ポチの気持ちがしっかり入り込んだ歌詞だよね。
▲一瀬貴之(Gt)


岩淵:そう。わかりやすく、でも自分らしい言葉を探しながら。シングル全体を通してなんですけど、今回はそれができたなと思います。
── 演奏、最高にかっこいいですよ。
岩淵:これは実は、テイク1が使われてるんです。
本多響平(Dr/以下、本多):何回か録って聴き直した時に、テイク1の青春感というか、青っぽさが一番あったんで、全会一致でこれにしました。
一瀬:テイク8ぐらいに優等生はいたんですよ。整ったやつはあったんですけど、でもこの曲の持つ青春性、恋の初期衝動とか、テイク1のほうが初々しさがあるかなと思って。
宮原颯(Ba/以下、宮原):これからレコーディングに慣れようかなみたいな、音を作ってみんなで合わせようか、みたいな時に録った1曲だったんで。すごく楽しくて、それが音に出てたのかな?と思います。だんだん真面目になってきて、ずれたらダメだとか、余計なことばかり考えるようになってくるので。でもその一発目は、みんな笑いながらやってたような演奏で、それが良かったんだと思いますね。
── 今回は4曲全部聴きどころで、2曲目「悪魔のつくりかた」もすごくいい。こういう曲、ポチちゃん時々作りますよね。曲調は穏やかだけれど、歌詞はどん底でもがくようなヘビーな曲。
岩淵:根はこうなんですよ。キラキラした恋愛を歌うポップロックバンド、みたいに見られてるかもしれないけど。なりたい自分と今の自分がうまくリンクできないという悶々とした気持ちがあって、ある夜そこにずるずると引きずり込まれちゃって。その時に思ったことを素直に書いた歌詞です。
▲MOSHIMO


── 逆に言うと、曲を作るという表現方法があって救われた。
岩淵:そう、この曲を作りながら、それでも私は幸せ者なんだろうなと思いました。私と似たような人は、引きこもっちゃうだろうなと思うんですけど、私にはバンドがあって、自己表現できるライブという場所もあるから、正気を保って歌っていられるので。だからそういう人に届いてくれたらうれしいなと思いますね。私、中学生の頃はすごいオタクだったんですよ。アニメや漫画が好きで、ずーっとパソコンと向かい合ってカチカチやってて、友達と話を合わせるのがきつかったというか。でも好きなことに対して向かっている自分がいて、そこだけは唯一楽しくてしょうがないみたいな。その時の自分と重ね合わせて作った曲ですね。
宮原:明るい人でも、こういう気持ちになる時はきっとあるし、むしろそういう人たちのほうが響くのかな?と思ったります。最後に“報われぬ日々に深呼吸”という言葉で終わってるのが、僕はすごく好きです。こういう気持ちになった時は受け入れるしかないから、その気持ちを全部込めて、また今日も始めましょうという言葉に救われる気がします。すごく好きな歌です。
── こういうテーマは、MOSHIMOの大事な武器だと思います。
岩淵:アレンジはイッチーが頑張ってくれました。
一瀬:素材がいいだけに、どうしようかなって迷ったんですけど。バンドサウンドには収まりきらなくて、こんな感じになりました。夜中に一人で悶々としている感じを、ウォームなアコースティック・ギターで表現しつつ、ちょっと無機質な感じをR&Bのビートで表現して、暖かさと無機質の共存みたいなことをすごく考えました。
本多:打ち込みがずっと入ってるんで、ドラムは一番苦戦しました。でもぴったり合った時はすごく気持ちよくて、いい感じになったと思います。
◆インタビュー(2)へ
■ はちみつって甘いのにめっちゃドロドロしてる

■ 「うわー、これ私じゃん!」って
▲EP「支配するのは君と恋の味」通常盤


── 3曲目「96メモリー」は?
岩淵:これは激しい曲調に相反するような、何とも言えない甘ったるいような女の子の恋愛観を入れて、サウンドと歌詞のギャップを作れたら面白いなと思って作った曲です。なんだかんだで、だらだらつきあいながら、別にいいよって強がりながらも、女の子と遊びに行っちゃったりする彼氏を見て嫉妬して、「やっぱり好きなんだ」っていうところに落ち着くみたいな。そういうものを書きたいなと思いました。
一瀬:出来上がって聴いてもらったら、女子からの共感率がすごくて、男は反省するような感じで(笑)。リアリティがあっていいなと。ポチの経験談ですね。
岩淵:そんな大して恋愛もしてないんで、経験談と言うと恥ずかしいんですけど……「わかる」と言われるとうれしいですね。
── これはもう、リズム隊は楽しく元気良く。
本多:勢いだけです(笑)。ギターがギャンギャンいって、ベースも歪んでるんで、ドラムのテックさんと「俺らもワルい音にしてやろうぜ」って。
▲本多響平(Dr)


一瀬:今回は全曲で世界観が違うので、ドラムセットを全部組み替えてやったんですよ。そこに岩淵も出てきて、「これは違う、組み直し!」とか言って。
岩淵:極悪なサウンドにしたかったんで(笑)。可愛らしい感じだし、ポップなメロディだったんで、それに相反するデストロイな部分をしっかりサウンドで出したいみたいな。ギターの歪みも、私が持ってる一番極悪な音を作ってます。
── 歌詞は、「支配するのは君と恋の味」が恋に発展する前の段階なら、こっちはもうつきあっていて、ちょっと倦怠期みたいな感じですかね。
岩淵:こういうことあるなーと思ったことを書いてみました。“はちみつとジェラシー”という言葉が一番悩んだところで、恋愛してると、いちゃいちゃしてる甘ったるさだけじゃなくて、女の嫉妬とか醜いところもあるから、出しちゃダメだとわかってるけど、「好きという思いがそうなっちゃうんだよ」というところを表現するのがすごく難しくて。ちょうどその頃ライブとレコーディングが重なっていて、喉にいいからってはちみつをスタッフからもらってたんですよ。はちみつって甘いのにめっちゃドロドロしてると思って、熱いぐらいに甘ったるく感じるけど、すごいねちねちしてて、「うわー、これ私じゃん!」みたいな。
一瀬:その着眼点がすごい(笑)。
岩淵:それで“はちみつ味のジェラシー”にしたかったんですけど、いろいろ考えてこれになりました。甘さと醜い部分と、相反する部分をくっつけようと思って。
▲MOSHIMO


── そしてもう1曲が「白い自転車」。オールドタイプというか、ちょっといなたい感じ、奥田民生を思わせるようなロック・チューンと言いますか。
一瀬:まさにそうです。奥田民生さんとか、YUKIさんの初期の感じとか、イントロは山下達郎さんを意識したりとか、古き良きロックをレスポールでかき鳴らしたいみたいな。最近の若いバンドはあまりやってないかもしれないけど、個人的にすごく好きなので、そういうサウンドにしたいなと思ってました。もともと彼女が持ってきたAメロの歌詞が、日常感というか、気だるい午後の感じが出ていたので、世界観にはぴったりかなと。
岩淵:それこそ二人で曲を作る時に、よく自転車で行き帰りするんですけど、いい曲が浮かばなくて悩んでる時期で、「何かいいことないかな。楽しいことが毎日あればいいの」にと思いながら、ハナウタで歌っていたら言葉が出てきて、そのまま作った曲です。毎日楽しいことをして、笑って、未知の世界へ突っ込んで無茶苦茶したいみたいな、常にときめきを求めるという意味合いを込めて。
一瀬:本当に白い自転車に乗ってるしね。すごいなと思ったのは、最後の歌詞が“エイトビートは止まらない”で終わってるんですけど、そこを“バンドがこれから進んで行く”という意味と掛けていたりとか。あと1曲目がエイトビートの「支配するのは君と恋の味」で始まって、4曲目が“エイトビートは止まらない”で終わるという、いろいろフックがあるなと思って、すごいなと。
岩淵:最後っぽい曲だと思ったから、このまま突き進みたいなという思いを込めて。
一瀬:ナチュラルにそういうことをやってるのはすごいと思う。
岩淵:ありがとうございます。恥ずかしい…。伏線を張るのが好きなんですよ。伏線を張って、回収して、ちょっとドヤるみたいな(笑)。人の曲を聴く時にも、なんでこの言葉を選んだんだろう?って考えて、でも「なんかわかるな」とか、そういうのがすごく好きなので。それが出てるのかなと思います。
本多:個人的にはイントロや間奏の、ハイハットがハーフオープンのジャンジャン!でもなく、クローズのチッチッ!でもなく、微妙な感じに空けて、表ノリを意識して叩きました。80年代ジャパニーズ・ロックみたいなイメージです。
◆インタビュー(3)へ
■ ライブハウスに入っていきなり、「なめられてない?」って(笑)
── という4曲入りEP。こうやって話を聞いてると、言葉とサウンドのマッチングとか、歌と演奏のバランスとか、相反する言葉の共存とか。ものすごく精密に考えるようになってきてるなって思いますね。ほんの数か月前に話した時よりも、すごいスピードで意識が高まってる気がする。
一瀬:バンド全体としてビジョンを共有するというか、ちゃんと話すようになりましたね。前回のツアーを踏まえていろいろ考えることがあって、バンドとしてもっと自分たちが楽しくやらなきゃいけないとか、もっと曲の幅を表現するためアレンジを工夫して、ライブでできることを増やしたいとか。ここ1、2か月ですごくみんなで話すようになったんで、そこからみんなの意識も変わってきて、モチベーションが上がった気がします。
岩淵:おこがましいかもしれないんですけど、どこよりもポップでわかりやすくて、でもサウンドはどこよりもロックしてやろう!って、そういうバンドになりたいってみんなで話してます。自分たちならではのグルーヴ感や言葉の言い回しや、アグレッシブさをもっともっと突き詰めて、誰にも真似できないバンドになってやろうということが、今は明確に出てきているので。はい。すいません…。
── あはは。なぜ謝る。
岩淵:恥ずかしくて…。でも今はそれをすごく思います。たくさんバンドさんたちがいる中で、自分たちらしさをもっと突き詰めたいし、私の中では機材というものが、自分のコンプレックスを埋めてくれる軍隊のようなイメージなんですよ。いかにこの軍隊を自分らしく構築して、MOSHIMOという一国を築き上げて、いざ戦いに出るか!みたいな感覚でやってます。
一瀬:誰も攻めてきてないんですけどね(笑)。でも上京して1年ぐらいなんですけど、いいバンドがいっぱい出てきてるじゃないですか。それを見てすごく刺激を受けて、負けてられないというジェラシーみたいな、そういうものが原動力になってるかもしれない。
岩淵:私たち、見た目も普通だし、雑魚そうに見られてるんじゃないか?という。被害妄想なのはわかってるんですけど。ほんとごめん…。
── あはは。メンバーに謝るポチ(笑)。
岩淵:だってアー写(アーティスト写真)とかに写った時に、めっちゃ個性的な顔か?というとそうでもなく。そこがある意味コンプレックスだったんで、そこをサウンドできちんと埋めて、ちゃんと音楽で違いを出せるバンドになりたいなと思ってます。あ、これ言っちゃダメですよ、ほかの人に。
── ええっ!(笑)
一瀬:あのー、取材しに来てくれてる人に“ほかの人に言っちゃダメですよ”って、ほかの人に伝えるために来てくれてるんだから(笑)。
岩淵:すいません…。それがずっと、ねちねちと心の中で思ってることなので。
── いえいえ。面白いからいいです(笑)。
一瀬:この間もね、ライブハウスに入っていきなり「なめられてない?」って(笑)。
岩淵:ちーがーうー!(笑) 性格悪いとか思わないでください。ほんと、見た目が普通なだけに、「どうせ…」みたいな気持ちがあるんですよ。
宮原:何も言われたことないけどね(笑)。
▲宮原颯(Ba)


岩淵:ないんだけど(笑)。勝手に自信がなくて、ぷるぷる震えてる小型犬が吠えてるだけかもしれないですけど。そういう謎のコンプレックスを埋めるために、今いろいろやってるのかなって思います。今回のレコーディングで、「こうしたらいいね」というものがいろいろ出てきたんですよ。みんなが何をやっているかもう一回見直して、音の定位作りをちゃんとやって、歌が一番抜けるポイントを探しながらやってみたら、全然変わったんですよね。音の分離がいいと単純に楽しいし、私自身も歌いやすいし。
一瀬:音作りにこだわった上で、ライブでは自分たちがまず楽しむことを一番大事にしてます。自分たちが楽しんでいたらお客さんも笑顔になると思うし、次のツアーでもとにかく楽しむことを重視してやっていこうと思います。
取材・文◎宮本英夫

ライブ写真 撮影◎樋渡新一(2017.7.9 ワンマンツアー2017夏「今宵もキミにこころあり」@渋谷WWW)
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▲1st EP『支配するのは君と恋の味』初回限定盤

▲1st EP『支配するのは君と恋の味』通常盤
MOSHIMO 1st EP『支配するのは君と恋の味』


[CD収録曲]

01. 支配するのは君と恋の味

02. 悪魔のつくりかた

03. 96メモリー

04. 白い自転車
【初回限定盤】

CD+DVD(at 渋谷WWW ワンマンツアー「今宵もキミにこころあり」2017.7.9)

¥2,000+税 / LASCD-0083

- DVD収録曲 -

・ミラーボール

・途切れないように

・花束

・触らぬキミに祟りなし

・命短し恋せよ乙女
【通常盤】

CDのみ

¥1,200+税 / LASCD-0084
MOSHIMO『支配するのは君と恋の味』発売記念インストアライブ&サイン会


10月15日(日)13:00〜&15:00〜【福岡】タワーレコード福岡パルコ店

12月2日(土)14:00〜【札幌】タワーレコード札幌ピヴォ店

11月12日(日)18:30~【名古屋】名古屋パルコ西館1F

11月13日(月)19:00〜【東京】タワーレコード新宿店7F
MOSHIMOワンマンツアー2017冬<恋の怪物は君のすぐそばに>


10月28日(土)【大阪】梅田 Banana Hall

11月3日(金・祝)【愛知】名古屋 ell.FITS ALL

11月5日(日)【福岡】BEAT STATION

12月9日(土)【東京】SHIBUYA CLUB QUATTRO

※チケットは各プレイガイドにて一般発売中

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