『今が、オールタイムベスト』で新た
なステージへ突入~玉田企画主宰・玉
田真也に聞く

近頃「滅法面白い」と評判の演劇ユニット、玉田企画が、新作公演『今が、オールタイムベスト』を6月27日よりアトリエヘリコプターで上演する(7月4日まで)。玉田企画は、劇団青年団の演出部に所属する玉田真也の作品を上演するために、2012年に「青年団若手自主企画 玉田企画」として活動を開始、2014年からは「青年団リンク 玉田企画」としてコミカルながらクウォリティの極めて高い現代口語演劇を次々と発表し、小劇場通から一目を置かれる存在となっている。そんな玉田から、新作の上演を目前に控える中で話を聞いた。
--まったく知らない劇団でも、気の利いた劇団名だったりすると「この芝居、観に行ってみようかな」って思います。CDのジャケ買いでもするような感覚でね。しかしながら「玉田企画」という名称はなんとも……(苦笑)。
全然面白そうじゃないですよね(笑)。どこかの小さな会社みたいで。
--それも、節税対策用のペーパーカンパニーみたいな……(笑)。
元々は「青年団若手自主企画 玉田企画」だったんです。青年団に入ると、誰でも公演の企画を提出することができて、それが審査に通ると「青年団若手自主企画」として上演が可能になります。ただ、その際の決まりとして「自分の名前」プラス「企画」という名称でやらなければいけない。でも、一定の評価を得られるようになれば「青年団リンク」のユニットとして認められ、そこからは好きなユニット名を付けていいんです。
--今では青年団から独立した「五反田団」や「サンプル」も、かつては青年団リンクでしたよね。現在の青年団リンクだと「ホエイ」とか「キュイ」とか、ですか。
ええ。けれど僕は青年団リンクになる時にユニット名をどうするか問われ、「玉田企画のままで」と言っちゃったんです(笑)。なんかそういう、名前を付けるということが、面倒くさいというか照れくさいというか。だから、そのまんまでいいやって(笑)。
--そのユニット名のせいで玉田企画に対しては、最初すごく地味そうなイメージしか抱けませんでした。でも風の噂で面白いらしいと聞き、観に行ったところ、たしかに面白かった。ただ初めの頃は、同じ青年団リンクだった水素74%との区別があまりつきませんでしたね。水素74%には玉田さんも出演したり、他にも出演者が何人か共通していましたよね。
そうですね。水素74%とは親しいので、いい役者が出ていると紹介してもらって、玉田企画にも出てもらったりしてました。
--でも、何度か観てるうちに玉田企画の個性が掴めるようになり、ハマるようになりました。大方の作品が、学生の合宿とか修学旅行といったシチュエーションで。学生ものは、玉田企画の定番となった感がありますね。
たしかに高校生ものが何個かあって、中学生ものもあり、またカラオケボックスを舞台にした大学生ものもありました。最近、なんで自分はそんなに学生ものばかり書いていたのかと考えたんです。……まず、原動力になっているのが劣等感。人はそれで、自分を良く見せたいとか、評価をあげたい、褒められたいと思いながら、いろいろな行動をする。でも、その思惑が透けて見えてしまう時、周囲から「あいつ、イタいな」ってなるんです。その瞬間を逃さず捉えて書くのが、僕にとって一番好きなことなんですね。そして、それを一番書きやすかったのが、学生のシチュエーションなんだろうな、と思います。例えば中学生なんかは、そのイタい部分がダダ洩れしっ放しですからね(笑)。
--さらに、玉田企画で特に印象的だったのは、「オレ」の「オ」のほうにアクセントをつけて「オレは~」って話す少年のキャラクターです。先日の『少年期の脳みそ』にも出てました。玉田企画の芝居には頻繁に登場しますね。朴訥でありながら謎めいた不思議なキャラクターで、大好きです。
あの「オレは~」って話すのは手塚という、稽古場で偶然生まれたキャラクターで、演じていたのは、由かほる(青年団)さんです。あのキャラは今まで2つの作品に登場しました。
--え? 2つだけでしたっけ?
はい。でも、その手塚が出てくる2作品=『果てまでの旅』『少年期の脳みそ』はそれぞれ再演をしてますから、計4回やってますね。
僕の作品の中で笑いを生む方法を改めて考えてみると、まず空気を共有してるというか、同調圧力の中で生きている人々がいます。でもそれだけでは笑いは生まれてこない。その外側に空気を理解していない奴がいて、そいつが何かをぶち込んでくることで空気がぐじゃぐじゃっとなってしまう。そこが面白いんです。
「オレは~」って話す手塚というキャラもまさにそうで、他の学生たちが同じ空気を共有しながらコミュニケーションをとっているのに対して、彼だけは全然それを理解してないアウトサイダーなんです。だから「それ訊いちゃう?」「それは訊かない約束でしょ?」っていうことを無遠慮に突っ込んで訊いてきちゃう。一方、『怪童がゆく』という別の芝居では、ブライアリー・ロング(青年団)さんの演じる外国人の留学生が、同じ役割を担っていました。日本人のコミュニケーションの空気を全く酌んでくれることなく、ロジカルにドンと入り込んでくるんです。
--あの留学生の役も実に痛快でした。ブライアリー・ロングさん本人の持ち味がすごく良く活かされてるようにも見えて、彼女の代表作と言ってもいいのではないかと。できることなら、手塚や留学生といった愛すべきキャラをフィーチャーしたスピンオフとかも見てみたいです。
ああ。本来は外側の人間として描かれていた手塚や留学生が中心に来る話ですか。それはもしかすると面白いかもしれませんね。考えてみます。
--そして新作の『今が、オールタイムベスト』について。意味深な感じのタイトルですが、これはどういう話ですか。
結婚式の後に、その場に残っている人たちの話を書こうと思いました。式が終わったんだからさっさと帰ればいいのに、楽しくてずーっとワイワイやってる。そういう「今が一番楽しいでしょ、俺たち」という状態で群れているところを切り取って描いたら面白いんじゃないかと思いました。
--すると、今回は学生の合宿の話からは離れるわけですね。
学生もののシチュエーションを書くのは、さすがにもう飽きました。周りからも「そろそろ学生ものではないものを見たい」と言われ始めていたんです。それで、学生が出てこないシチュエーションでも、先ほど言った、自分の評価を上げたいがために動く人々というものを描きさえすれば、なんかイケるんじゃないかっていう……とりあえず今回は、そういう“実験”ですね。
--宮崎吐夢さん、浅野千鶴(味わい堂々)さん、神谷圭介(テニスコート)さんの三人は今回、玉田企画初出演ですね。
そうです。まず宮崎さんの出ている舞台はいろいろ観てきましたが、あの、どこにいてもハマらなさそうな、絶妙な違和感が本当に好きなんです。以前、『あの日々の話』という僕らの芝居を、城山羊の会の山内ケンジさんと一緒に観に来てくれた時、お酒の席で「出て欲しいです」と話したことがありました。その時のことを今回思い出して、改めて打診したところ、快く受けてくださいました。
浅野さんは、何公演か前からずっと誘い続けていたのですが、そのつど予定が合わず、今回やっと出演してもらえることになりました。だから、とても嬉しいです。
テニスコートの神谷さんは、渋谷のユーロライブでやっている「テアトロコント」という、芸人と演劇人がコントを披露しあうイベントで、僕と同じ演劇側で共に出演して以来、交流するようになりました。この人は、リアクションの取り方が本当に面白いんです。ウケの芝居がすごく上手い。
--ユーロライブといえば、玉田さんはお笑いユニットの活動も何度かそこで行っていますよね。
はい。「弱い人たち」という4人組のユニットで、ユーロライブによるプロデュース公演として3回、同じくテアトロコントに1回、参加してます。僕以外の3人は、ラブレターズの塚本直毅さん、ポテンシャル聡さん、ゾフィーの上田航平さんという芸人ばかりで、全員で作・演出を手掛けているので、玉田企画とは全く異なる味わいになります。今回『今が、オールタイムベスト』に出演する菊池真琴さんにも出演してもらってます。
--そのように、お笑いのフィールドにも片足を突っ込んでいる玉田さんだけに、今回宮崎さんや神谷さんといった笑いの才覚に長けた人材をキャスティングすることで、芝居自体も笑いの傾向を特に強化してゆきたいという考えはあるのですか。
いや、笑いの取り方を変えようというつもりは特にないですね。いつも通りです。僕はホン(台本)を書く時、あて書きをするタイプなのですが、宮崎さんにしろ神谷さんにしろ、純粋に、この人にこういうキャラクターをやってもらったら面白そうと思い、それだけでお願いをしたのです。とはいえ、例えば神谷さんですと、自分でもホンを書いて、コントをやっている人ですから、笑いの取り方や「間」の取り方などは非常に熟知してます。だからホンだけ渡せば、自分で笑いどころを探してくれるんじゃないか、とは思っています。そうなると、すごくやりやすいですよね(笑)。
--あ、それはホンが遅れたりした場合などには、なおさら有難いですよね(笑)。
ははは(笑)
--今回は、学生ものからの脱却であり、公演会場もアトリエ春風舎ではなくアトリエ・ヘリコプターを使うなど、いろいろな面で、新たな段階に進もうとしているように見受けられるのですが、実際のところ、そういう気持ちはおありですか。
それはあります。先ほども言いましたが、今までやって来たことに飽きたというのが一番大きくて、飽きた状態で今までの焼き直しを作るのは嫌なので、新しい別の何かを作っていきたいと考えています。今回の公演でただちにそれが結実するかどうかは全然わからないのですが、新しい期に入りつつあることは自覚してます。
でも、そのためには自分の中に新しいインプットが必要だと思っているんです。例えば、僕が今後やりたいと思っているのが、他人の戯曲を演出することです。好きな劇作家の、あまり上演されていない戯曲を演出できたらいいなあと。他人の書いた戯曲は、読むだけでも大変面白いですけれど、実際に自分でそれを実体化させてみると、そのホンがどういうふうに作られているのか、どういう構造なのか、といったこともいろいろわかってくると思うんです。それが自分の作劇にとって、きっといい影響を及ぼすだろうと思ってます。
--これまでの玉田企画の“演技スタイル”は、青年団の主宰者である平田オリザさんの方法を最も正統的に継承してきたようにも見受けられます。それはやはり青年団の一員として、合わせてきたということなのでしょうか。
いや、特に合わせようとしたつもりはなかったですね。ただ、僕は大学時代から演劇をやってきたのですが、青年団に入団する以前には望んでも叶わなかった細かい演技を、青年団の俳優たちと一緒にやるようになってからは、的確に対応してくれるわけです。それによって、そういう演技スタイルを最大限に活かせる自分の作りたい芝居を作ろうとして、結果的にこれまでのような形になったのだと思います。ただ、今後どんどんタイプの違う俳優とやっていけば、全然違うものが新たに生まれてくるんじゃないかとも思っています。その意味でも、今度の新作公演はぜひとも注目していただきたいですね。
取材・文・撮影=安藤光夫
公演情報

玉田企画『今が、オールタイムベスト』
■日程:2017年6月27日(火)~ 7月4日(日)
■会場:アトリエヘリコプター(東京都品川区東五反田2丁目21−17)
■作・演出:玉田真也
■出演:
宮崎吐夢
浅野千鶴(味わい堂々)
神谷圭介(テニスコート)
菊池真琴
木下崇祥
玉田真也
野田慈伸(桃尻犬)
堀夏子(青年団)
山科圭太
■公式サイト:http://tamada-kikaku.com/

彼らは腐敗しきった世の中への怒りと悲しみを携え、新天地を求めて町を飛び出し、たどりついた先はまさに楽園で、素晴らしい仲間たちもいるし楽しくて仕方なく、「俺らほんとに気が合うな最強だな」と言って自由を謳歌し、歌い踊り、希望や野望を抱き、衝突し、いつしか互いに失望し、袂を分かち、家に帰ると決め、しかし帰る家はなく、もともと新天地などなかったのだとハッとして気づき、気づいたが次の瞬間には忘れ、次の地を求めて彷徨うのだった。

<公演履歴>
2017年3月 青年団リンク 玉田企画 『 少年期の脳みそ(再演) 』
2016年7月 青年団リンク 玉田企画 『 あの日々の話 』
2016年1月 青年団リンク 玉田企画 『 怪童がゆく 』
2015年9月 青年団リンク 玉田企画 『 果てまでの旅 』
2015年4月 青年団リンク 玉田企画 『 ふつうのひとびと 』
2014年11月 青年団リンク 玉田企画 『 宇宙のこども 』
2014年6月 青年団リンク 玉田企画 『 少年期の脳みそ 』
2013年8月 MITAKA “Next” Selection 14th 『 臆病な町 』
2013年3月 青年団若手自主企画 vol.56 『 ご飯の時間 』
2012年10月 青年団若手自主企画 vol.55 『 夢の星 』
2012年2月 青年団若手自主企画 vol.52 『 果てまでの旅 』

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