【ハルカトミユキ】
溜息を言葉にしてあげるのが歌の役割
ハルカトミユキが完成させた3rdアルバム『溜息の断面図』。“詩”と呼べる歌詞を書くだけではなくシンガーとしての迫力も得たハルカと、変化球だけではなく直球も投げられるようになったミユキ。進化は止まらない。
制作する上で考えていたことはありましたか?
ミユキ
5周年なので、何も変化のないものを出しても面白くないから、攻めていくものを作ろうと思っていました。
ハルカ
出てくる言葉も変わってきました。続けているうちに薄れてきた怒りを取り戻したと言えば分かりやすいと思います。今回はさらにその上を行く言葉が自然と出るようになりました。
1曲目から「わらべうた」ですけど、「終わりの始まり」の“もういいかい まあだだよ”っていう歌詞や、“大人”“子供”っていう言葉の多いところが気になりました。
ハルカ
そこは無意識に書いていたんですけど、今の27歳っていう年齢で何を書いたらいいのか悩んでました。ほんと、27歳でミュージシャンが死ぬ人が多いって分かった気がします。20歳で大人と言われて、それなりに社会人として成熟していきますけど、27歳って甘えも許されないし、かと言って完全に大人でもない、下からも上からも言われる苦しい時だと思うんです。だから、その感情をそのまま書いたんです。
また、面白いのは「終わりの始まり」で。ミユキさんが作曲でハルカさんの作詞、ハルカさんの作詞作曲ではないのに、言葉を伝えるような歌になっている。まるでミユキさんがハルカさんの言葉の受け皿を用意したかのような。
ハルカ
これも「WILL(Ending Note)」もメロディーがシンプルで強いんだけど、そこに言葉が重なっていくことで曲が成り立ってる。それって私だと逆に書けない。「終わりの始まり」は2月のライヴに向けてミユキが作ってきた時に、こういうことやっていいんだ!っていう気分にさせてくれたんですね。私、性格としてものすごく人の目とか声を気にするんですけど、そこは作詞作曲するには難しいところだと自分で思ってるんです。でも、ミユキはそこがほとんどないから(笑)、私がやりたかったことをミユキがやってくれた感じです。私ひとりではできないものだと思います。
ミユキ
2月のツアーの前にアー写をふたりが出会った池袋で撮ったり、ツアー初日が初めてライヴをやった池袋マンホールだったりして、当時を思い返したんです。初めてライヴをやった時は音楽になってなかったんですけど、一番ロックだった。あの感じをちゃんと音楽にしたいって思って。今回はどの楽曲も当時やりたかったことがちゃんと音楽になったと思います。あとは、女性ふたり組っていうのに関するイメージも嫌だった。これだけ勇ましいことできるんだ!っていう感じです。
なるほど。「WILL(Ending Note)」では、ハルカさんが詩人として新しいスタイルを見せていますね。
ハルカ
これはミユキのデモを聴いた時に、音が近い《存在》という言葉を一行の最後にしばりでやってみたらどうなるだろう?って思い書き始めました。また、“Ending Note”にしようと思った時に、《存在》を使う目的が見えたんです。
あとは「Fairy Trash Tale」の歌詞もいいですね。90年代UKギターロック風のイントロも好きです。
ミユキ
こういう曲って私たち的には王道なんです。でも、今作の中にそういう曲がなく、ハルカは作詞モードだったので、私がハルカトミユキの曲を研究して作りました。完全に自分は殺してます(笑)。
今までミユキさんは変化球を投げる役割でしたからね。
ミユキ
そうですね。あえて言うなら、サビで転調だけはしてやろうと思いました(笑)。
ミユキ
勘違いしてましたもん。自分の書いた曲だってカウントしてたし。それは嬉しいことですけどね(笑)。
でも、このラブリーさはミユキさんっぽいとも思いますよ。他には「インスタントラブ」もラブリーですよね。
ミユキ
あれはニューロマですよね(笑)。「Fairy Trash Tale」はコクトー・ツインズかな。私もこの曲の歌詞は好きです。
《おとぎ話を買いに行く》っていう表現は絶妙ですね。
ハルカ
おとぎ話って実は怖いじゃないですか。たいてい最後は暗いし。なのに、子供向け。でも、何でもハッピーエンドになるって覚え込まされて育つのは悲しいことです。現実はそんなことないわけですから。その発想から抜け出せなくなって、現実とのギャップに耐えられない大人も多いと思うんです。私の中ではおとぎ話って居場所みたいなものですけど、でもそれって結局お金で買うしかなかったりしませんか?
最初の話にもつながりますけど、今作には27歳のハルカトミユキらしく、大人も子供も共存していますよね。
ハルカ
そうかもしれないです。人に見せてる顔はひとつかもしれなくても、心の中にはいろんな人間がいる。それって悪いことじゃなくて、それを認めてあげないと生きていけないと思うんです。大人がいて、子供がいて、悪い奴がいて、でもやさしい人もいて、その矛盾を認めてあげないと生きていけない。人間の気味の悪さを認めてあげていいんじゃないかなって思って書いていました。
“溜息の断面図”っていうタイトルもいいですね。
ハルカ
歌詞が全て完成していない状態でタイトルを考えていました。途中で思い付いたのが、この言葉だったんです。さっき言ったような、人間の中にあるいろんな顔、感情、記憶。溜息って一番言葉になりづらい感情で、言葉にならないから溜息が出てるんでしょうけど、溜息を言葉にしてあげるのが歌の役割だと思ったんです。人には言えない些細なことや違和感って、みんな言葉にしないで流してますけど、言葉にしないってすごく危ないんです。世界がどんどん小さくなっていくから。そういう気持ちを込めてこのタイトルにしました。
取材:高橋美穂
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アルバム『溜息の断面図』2017年6月28日発売
Sony Music Associated Records
- 【初回盤(2CD)】
- AICL-3354〜5 ¥3,990(税込)
- 【通常盤】
- AICL-3356 ¥2,800(税込)
★アルバム レコ発 3days ※2マン
6/28(水) 東京・渋谷WWW X
w)tacica
6/29(木) 東京・渋谷WWW
w)peridots with 河野圭・横山竜一
6/30(金) 東京・渋谷CLUB QUATTRO
w)きのこ帝国
『Acoustic two man LIVE "ハルカトミユキ×新山詩織"』
7/12(水) 東京・代官山LOOP
『+5th Anniversary SPECIAL』
9/02(土) 東京・日比谷野外大音楽堂