【奥田民生】奥田民生 JCBホール 20
08年4月30日

撮影:入日伸介/取材:石田博嗣

客電が落ち、SEが鳴り止む。大歓声を受けてメンバーが登場するものの、その姿からして自然体だった。ラフなオーラを振りまいたままギターを手にした民生。しかし、「イナビカリ」のイントロダクションをかき鳴らすと、一瞬にして場内の空気が変わった。バンドメンバーは湊 雅史(Dr)、小原 礼(Ba)、斎藤有太(Key)。4ピースで放たれるサウンドは、いい感じに枯れ気味で渋く、それでいてポップだ。アルバムツアーということで、新作『Fantastic OT9』からのナンバーが次々と披露されていくのだが、バンド感あふれる作品であり、しかも同メンバーで制作されているということもあって、より痛快なグルーヴが生まれていた。それはアルバムの再現であってもアドリブ有りの自由度の高い演奏で、その時のテンションやフィーリング、その場の空気も一緒に音に込められているからだ。当然、“空気”にはオーディエンスの熱気も含まれていて、その瞬間だからこそのロックな空間が場内を制覇していた。 軽快に飛ばした序盤に対して、中盤からはゆるめなナンバーが並ぶ。“盛り上がりすぎて、失神してしまう人が出る”と前置きをして披露されたのは、まったりとした「3人はもりあがる(JとGとA)」。開放感あるジャジーなグルーヴで客席を酔わせると、さらに「ちばしって」や「愛のボート」がアートロックばりのディープな音の渦の中へと観る者を引きずり込む。また、「鈴の雨」での民生の壮烈なギターソロに誰もが釘付けになっていたのも特筆すべきことだろう。 そして、しっとりと聴かせたユニコーン時代の「家」、4人のアンサンブルが客席に心地良い風を送り込んだ「無限の風」と続いた後、いよいよライヴは佳境に突入する。フラッシュライトの中でギターをかき鳴らし、シャウトする民生。ワイルドに弾ける「ギブミークッキー」と初期衝動が詰まった「プライマル」を目の前のロックジャンキーたちにプレゼントすると、アッパなー「明日はどうだ」で本編を終えた。その後も再三のアンコールに応じ、「イージュー☆ライダー」や「さすらい」といったヒットナンバーで盛大に盛り上がると、オーラスをハートフルな「恋のかけら」で締めくくった。 ラフなオーラを発しながらも、最高のパフォーマンスを魅せた民生バンド。観客は円熟味に満ちたサウンドに陶酔していたのはもちろんのこと、ステージ上の4人もプレイを心底楽しんでいるのが十二分に見て取れた。ツアーファイナルに相応しい、まさにFantasticなロックコンサートだったことは言うまでもない。
奥田民生 プロフィール

ミュージシャンとしてプロデューサーとして、奥田民生ほど気負わずに、そして明確に自己のカラーを打ち出しているひとも珍しいだろう。87年にユニコーンのヴォーカリストとして、アルバム『ブーム』でデビュー。CDセールスやライヴ動員はうなぎ登りに数字を伸ばし、「メイビー・ブルー」や「大迷惑」など数々のヒットを生んだ。しかし、人気の絶頂期にあった93年、ラジオ『オールナイト・ニッポン』への出演を最後に突然解散。ファンのみならず音楽業界にも衝撃が走った。しかし、そんな周囲の声をもろともせず、奥田本人は充電期間ならぬ「釣り期間」に悠々自適に突入していったのだ。
そして、翌94年、シングル「愛のために」でソロ・デビューを果たすやいなや、いきなり100万枚を超すセールスでシーンに復活。その後、「息子」や「イージュー★ライダー」など数々の名曲を生み出すと共に、パフィーやダウンタウン・浜田雅功のプロデュースでも手腕を発揮した。その各々のキャラクターを最大限に活かした楽曲には、ゆるいムードと共に確信犯的な采配が詰まっているといえるだろう。また、井上陽水とのユニットや元ジェリーフィッシュのアンディー・スターマーとのコラボレート作品などもある。ツアーにおいても毎回凝った趣の演出をみせており、オリジナル・ヴァージョンとはまた違った角度から楽曲を披露。アコースティック・ギター1本のみで公演された『ひとり股旅』ツアーなどは記憶に新しいところだ。
いい意味で円熟することなく我が道を突き進む奥田民生は、今や日本のミュージック・シーンのニュー・スタンダードである。奥田民生 オフィシャルHP(レーベル)
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OKMusic編集部

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