【amazarashi】『amazarashi LIVE T
OUR 2014『あんたへ』』2014年1月11
日 at Zepp Tokyo

撮影:高岡 弘/取材:田山雄士

 メジャー5枚目のミニアルバム『あんたへ』を引っ下げたamazarashiのワンマンツアーは、ライヴの数日前にメンバーである豊川真奈美(Piano&Key)の体調不良による活動休止が突如発表されるアクシデントもあり、いくらか不安を抱える状況での初日となった。とはいえ、チケットは今回も早々とソールドアウト。開演前のフロアーはすでに静かに熱気を帯びた観客でぎっしりと埋め尽くされ、その誰もがバンドの登場を、秋田ひろむ(Vo&Gu)の歌声を心待ちにしていた。

 会場が暗転するとすぐに凛としたピアノが鳴り響き、『あんたへ』のオープニング・トラック「まえがき」からライヴがスタート。《これからのあんたへ捧ぐ》と歌詞にある通り、これはすなわち、この場所に足を運んでくれたあんたへ歌ってるんだよという秋田なりの意思表示だろう。いつものように透過スクリーンの向こうに現れたamazarashiは、秋田が真ん中に立つ5人横一列の陣形で、彼の左右にはサポート・メンバーがふたりずつ付いている。続く「ジュブナイル」では、激情のヴォーカルが凄まじい爆音とともに解き放たれる中、スクリーンに投影される言葉がものすごい勢いと強度で聴き手に迫ってくる。MVと生演奏のシンクロ、歌詞と映像のカットアップはますます研ぎ澄まされ、秋田の鮮血がほとばしるような強烈な楽曲の世界観がまざまざと体現されていく。また、照明がより効果的に使われていたのもポイントで、ここぞの瞬間での緑色のレーザー光やフラッシュが酔いそうなほどの迫力で会場を包み込む演出は、実に拡張現実的で知覚に鋭く訴えかけるものだった。そして、鍵盤を奏でるのは豊川の代わりで正メンバーではないものの、異なるカラーを打ち出した磐石のサポートで、こちらの懸念をあっと言う間に払拭してみせた。

 秋田の歌声もまた逞しくなっていた。やはり、自身のドキュメントのような色合いが強い『あんたへ』を生み出せたことが大きかったのだろう。交互に足踏みを繰り返してきた彼のこれまでの歩みを思い返すと、眩いくらいに開けたメッセージを叫ぶ「あんたへ」はとりわけ感動的で、その歌に満ちた説得力にも大いに圧倒された。そうした陽の部分と、初期のトレードマークであった陰の部分がバランス良く表現されていたことも、この日のライヴを味わい豊かなものにしていた要因だと思う。“人生いろいろあるし、変わんないって思ってたことも変わっちゃうし、いるべき場所にいられないこともあるし…と考えると、わいはもっと今の歌を歌っていかなきゃなと思いました。今日はありがとうございました”。13曲を休みなく歌い終えたあと、秋田は思いの丈を振り絞るようにそう語った。その後に披露された「終わりで始まり」は途中で言葉を詰まらせる場面もあって本人としては悔いの残る演奏だったかもしれないが、彼が感情を募らせたその人間臭さに、それでも新たな誓いを叫ぼうとする歌いっぷりに、オーディエンスはむしろ好感を覚えたのではないだろうか。

 ライヴがラストに向かうにつれて、映像などの演出は少なくなっていく。それは「あんたへ」のMVやタワーレコード『NO MUSIC,NO LIFE?』のポスターで少しずつその姿を見せていった秋田の脱皮を見る感覚に近かった。最後には、中島美嘉に提供した「僕が死のうと思ったのは」をまさかのギター弾き語りでセルフカバー。アカペラで聴かせる箇所もあるなど着飾らない裸のパフォーマンスは、いつの日か目の前のスクリーンを取っ払ってしまうような妄想さえ抱かせたし、amazarashiのそんな新しい気運の胎動、能動的なメッセージを感じ取ったせいか、ライヴ後は不思議な爽やかさで心が満たされていた。2月8日(土)の札幌PENNY LANE24まで続く全6公演のこのツアー。今後の変化も見逃せないものになりそうだ。

セットリスト

  1. ※現在ツアー中のため、セットリストの公表を控えさせていただきます。
amazarashi プロフィール

アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。amazarashi オフィシャルHP

OKMusic編集部

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