【北出菜奈】
取材:高橋美穂
このアルバムに拘束されて、自由になっ
てほしい
まず、タイトルからして非常にインパクトがありますね。
“何かに拘束されることで自由になれる”っていう私の中の哲学があって。“Bondage”って、物とか人とかの関わりが必要で、ひとりでは成立しないことだと思うんですね。拘束って、別々のものがつながるって感じがして、人との正しい付き合い方な気がするんです。だから、このアルバムでいろんな人を拘束したいですね。それでいろんな人が自由になれたらいいなって。
菜奈さんの哲学が明確になったからこそ、このアルバムは生まれたのかもしれませんね。
そうですね。作る前に、私がやるべきことを捉えられるようになってきたんです。自分のことを客観的に見れるようにもなったし、やりたいことを形にできる状況も整ってきてて。
また、哲学がありつつも、それがいろいろな色で表現されてますよね。狂気的な楽曲もあれば母性的な楽曲もあって。
不思議なんですけど、自分の中にはたくさんの自分がいると思っています。分かりやすく言うと、仕事が好きっていう自分と、ダラダラしたいっていう自分とか(笑)。そういうのを自然にやってるだけなんですよ。どれも私って肯定したいんで。あとは、私の中でもバランスをとってるところもあるのかなって思います。ずっと狂気的ではいられないし、かといってずっとやさしくもいられないし。
統一しないことによって、人間臭い音楽になってますよね。
意志や感情をストレートに出したかったんです。赤ちゃんの泣き声とか、雷が落ちる音とか、発情期の猫の鳴き声って説得力があると思うんですよね。耳がいくし、言葉になってなくても意志がある音だなって。そういう音楽を作りたいと思ったんです。あざといこととか、計算とか…作っていく上で計算はしなきゃいけないのかもしれないですけど、歌う瞬間に関しては一切排除するようにしましたね。だから、あんまりきれいにしないように気を付けて(笑)。技術を使えばきれいにできるかもしれないけど、それを私がやってしまったら元も子もないなって。手作りのものが歪で温かい、みたいな感じですかね。
それはこの時代に於いて、非常に意味がある表現ですね。
機械的なものが増えて、温もりが失われてきているのは、すごく悲しいと思う。機械的になっても、人間の意志は残るべきだし。レコーディングも進化してるけど、昔のレコードとか聴くと、録り直したら前のテイクが消えちゃう時代だったから、一回に懸ける精神がすごくって、緊張感が宿ってるんですよね。今はある意味気楽な時代だと思う。ただ、前のテイクが残ってるから、やっぱり前のにしようって選択できるのも、いいことだとは思うんです。だから、それを上手く使わなきゃいけないなって。
いいことは取り入れて、残すっていう。
そうそう。そうやって前に進まなきゃいけない。
そういう方向性は、サウンドプロデューサーの根岸(孝旨)さんや、西川(進)さんや、恩田(快人)さんに話しました?
そうですね。“その音は、今はSFのエイリアンの声みたいだけど、もっと天の神の叫び声みたいな感じにして”とか、そんなことしか言えなかったから、みんなすごい手探りで(苦笑)。でも、私が何のためにそういうことを言うのか、理解してくれて、付き合ってくれた。セッティングに時間がかかって、ギター一本しか録れない日とかもありましたけどね(苦笑)。でも、それで一音一音の念を大事にすることができました。私はソロだから、今までそこまでやるのが難しかったんですけど、やっとそういうことを行き渡らせられるようになりましたね。
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