【臼井嗣人】
取材:高橋美穂
単に未来を見せるだけでは無責任だと思
う
まず、“あしたのできごと”というタイトルが印象的ですが、アルバムを作る上での全体的なテーマだったりしたんですか?
タイトルを付けたのは最後なんですよ。入れる曲が決まったところで“全部に共通して言えることはないかな?”って思った時に、あの頃は良かったなって始まる曲もあるんですけど、結果的には未来を見据えた書き方になっているので、“あした”って入れたいと思ったんです。でも、ただ単に未来を見せるだけのタイトルはちょっと無責任というか、自分らしくないと思ったんで、“できごと”って言葉と組み合わせるとバランスが面白いんじゃないかなって。出来事って基本的に過去に対して使うじゃないですか。“今日の出来事”とか。だから、明日に付けると微妙な違和感があるんですけど、今日も明日になれば昨日になるじゃないですか。そう思った時に、未来って少なからず不安があるけど、毎日みんな知らず知らずのうちに乗り越えてるわけだし、それには自信を持っていいと思うんですよね。そういう意味でも、“あしたのできごと”っていいなぁと思って。
臼井さんの楽曲には、過去と今を比較したような歌詞が多いですけど、そこには明日への希望も宿ってるんですね。
僕自身、前向きな性格ではないんですけど、無理をしてでも前を向かなきゃいけないこともあるし。そうなると、希望を持てることがないと前を向けないから、そういうことを楽曲に入れたいなと。ただ、見えない未来を描いても単なる夢物語だし、リアリティーがないので、自分の通過してきた過去や、今の状況を昇華した、“これなら未来も何かできるかな?”っていう希望を持った楽曲の方がリアルに未来が見えると思うんです。
今回、楽曲的にもいろんな挑戦をされていますね。アコースティックだけじゃなく、バンドサウンドの楽曲とか。
それは結構意識ました。僕ってアコギを弾いて歌ってる人っていうイメージが強いと思うんですけど、エレキ持って歌ってた時期もありましたし、アコギにこだってるわけでもないので、こういう感じが自分の中ではバランスがいいんですよ。
またアコギでも、昨今の優しくて繊細なアコースティックのイメージを覆すような、鋭い使い方をしてる楽曲もありますね。
そういう『渋谷零時五十二分』や『HELLO! HELLO! HELLO!』みたいな曲は、これからもっと作っていきたいですね。単純に音だけとったらエレキの方が強いじゃないですか。だけど、アコギで荒くやった時に、エレキ以上の強さが出る曲もあると思い始めて…泉谷しげるさんの曲とかもそうじゃないですか。
ちなみに今回の収録曲は、今まで書き溜めてたものですか?
書き溜めてきたものもあるし、最終的にこういうのも欲しいねって新たに作ったりしましたね。特に古いのは『大人になった僕達は』なんですけど、今も住んでる辺りを見るたびに思い出す感情を書いているので、あまり自分の中では過去の曲にならないんです。今27歳ですけど、昔の友達と会ったりして、“あの頃、俺らこうだったよな”って思い出す感情ってなくならないし、むしろ年をとるにつれて強くなっていくんだろうなって。
思いが変わらずに歌い続けていける楽曲ってことですね。
『グッドラックイエスタデー』もそうですね。この2曲って、答えが出てないんですよ、自分の中で。“こんなふうに思っちゃうけど、何でだろう?”っていう気持ちを歌にしてるので。きっと答えが出ると、過去のものになるんでしょうね。まぁ、納得したいからって力技で答えを見付けることはできるだろうけど、それだと明日になったら、違うって思ってしまいそうですからね。
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