【安藤裕子】
取材:保母大三郎
まさにベストな6年分の歌、生きてます
ベスト盤発売までの道のりが長いように思えたのですが。“デビューから6年目にようやくかい!”みたいな(笑)
なかなかベスト盤を出すタイミングが難しかったんですよ。それで今回、いざ出すとなったら、曲を絞り込むのが大変で。
CD2枚組でも収まりきれなかった感じ?
初めての人が手に取るというので、DISC1は基本的にシングルとリード曲が中心なんですけど、シングルでもリード曲でもない『忘れものの森』『聖者の行進』は入れてます。“安藤裕子”って音楽を知っていただくんであれば、シングル以外の曲の方が大事な気がしたので。アルバム全体で自分の世界を作ってきたから。だから、アルバムで世界観を作るのと同じように、曲順や選曲で世界を作りました。DVDバージョンじゃない方のDISC2には、なるべく自分の思い入れのあるものやディレクターが入れたいもの、シングルでもリード曲でもないけどアルバムの中でとても大きい役割を果たしてくれた曲を前提で選んで。でも、分数が足りなく、いろいろ悩んで削って…すごい疲れました。ベスト盤って作るの楽そうかと思ったら、“すごい大変じゃん!”って(笑)
でも、悩んで削ったかいのある、初心者にもマニアにも納得のベスト盤だと思いますよ。
本当に削いで、削いで作った、安藤裕子の中心の中心。この他の醍醐味もあるけど、安藤裕子って音楽の中心を作るんであれば、こういう形なのかなと。
選曲中は、デビューからの6年間を振り返って感慨深くなったりしません?
いや、デビューしてから意外とあっと言う間でしたよ。“デビューしたの一昨年前だっけ?”みたいな感覚。あんまり感慨深くはなりませんでしたね。日常生活でも、結構ボーっとしてるんで。自分の携帯番号もすぐ忘れちゃうぐらいに(笑)。この間も電話で買い物していて、“お客様の電話番号お願いします”って言われて、思い出せなくて。“大変だ~”みたいな(笑)
それはヤバい(笑)。改めて、6年前の自分と今の自分とを比べて、何が一番変わったと思います?
声です。音楽的な感じとか、曲の新鮮さとかに変化はあまり感じないんだけど、声はすごく変わったなと思います。なんかいいふうに。初期の頃は、とにかく歌入れが苦手で。ヘッドホーンが嫌なんですよ。自分の声がダイレクトに聴こえると、どんどん声が細くなっちゃう。でも、今はヘッドホーンを微妙にズラすって高等な技を覚えたので(笑)、声も前に出るような感じになってます。
歌詞の世界観も自分の中で変わってきたと思います?
意識はしてないけど、だんだん生まれてくるものが、シンプルになってきてますね。前は遠回しに描いてたような気がするけど、だんだん自分の中で、遠回しな表現がしゃらくさいって気持ちになって、シンプルになったんじゃないかなと。メロディラインもだんだん素直に、シンプルになっていったなと思って。
前作の4thアルバム『chronicle』が、すごい分岐点になってるのでは?
まさにそうですね。『chronicle』は、とにかく自分の中で分岐点だったんですよ。音楽的にも、人生的にも。子供の時代を引きずってた自分の終わりというか、なんか分かんないけど、とにかく時代の区切りを感じていて。3rdアルバム『shabon songs』に『唄い前夜』って曲が入ってるんだけど、『唄い前夜』の頃に変化の兆しみたいなものを感じていて。もう、このまま前と同じではいられないんだなって思いがあったのね、自分の中で。変な喪失感がすごくあって怖かった。それで『chronicle』の制作に入って、ふっと気付いたら、変化の波のど真ん中にドブンとひとりでいる感じがあって…
喪失感を引きずったままってこと?
喪失感はなく、怖くもない。これまで得たものをなくしたのではなく、得たものを消化したような。逆に言えば、自分の足で立ち上がり、今から始まるようなイメージが浮かんだんです。殻から完全に解き放たれたというか。『chronicle』は本当にそういう意味で、安藤裕子って音楽が出来上がったんだって実感が沸いた作品です。
このベスト盤の一番最後に「はじまりの唄」を持ってきたのが、何となく分かる気がするなぁ。この曲順とこの曲が持つ意味って重要なんですね。
すごく重要ですね。『はじまりの唄』は文字通り、これから始まっていくことに向けて歌っている。だから、本当に一番シンプルで、ミュージッククリップもシンプル。とにかく何も飾らないで、裸の状態を表現した曲がベスト盤の最後を飾ってるんです。裸になって、そこからまた新たにスタートを切るっていう。
だとしたら、ベスト盤を出すタイミングとしては、本当にいいタイミングだね。『chronicle』までが第一章で、それを今回のベストでまとめたみたいな。
自分にとっての第一章がようやく終わったみたいな感じがします。このベストを土台にしたいですね、そっから広がっていくことが大事だと思っているから。
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