【ギターウルフ】自らの“ギターウル
フ魂”を再認識した
爆音の伝道師たちが帰ってきた。セイジ(Vo&Gu)の復活作となる、約2年ぶりのミニアルバムは、不変でありながら変わり続けるギターウルフの職人芸が満載。危険水域スレスレのロックンロールは最高にスリリングだ! そのセイジに最新作について訊いた!
取材:金澤隆志
脚の手術のために長期入院されていたんですよね。もうそちらの方は大丈夫ですか?
野音という目標があったから、どうしてもステージに立てる状態にしなければならなくて、そのおかげで治りは早かった。それまでは常に曲のアイデアをキャッチするために電波をビリビリ出してたんだけど、初めて停波したことで、えらく空っぽになってしまって。ギターウルフを始めて以来、初めてロックのことを考えなかったから。
では、客観的に見えることもあったのでは?
明らかに違ったことがひとつあった。それは野音の4カ月前に久々にバンドで練習を始めようという前の晩、それまでボケーッとしていたのに、明日いよいよギターウルフになるんだ、ということで急に体に力がみなぎってきて。これだけの変身が必要だったんだなって気付かされた。マイケル・ジャクソンが『スリラー』のビデオで変身した感じ。動悸が激しくなってね。驚いたよ。
ということは、『ジェット サティスファクション』は、まさに新生ギターウルフの作品と言えるかもしれませんね。
そうだね。曲調はこれまでと同じだけど、自分としてはこの5曲は、今までとは違う新しいものとして感じているんだ。
今回いつも個性的なセイジさんの歌詞の中でも特に印象的だったのが「ワイルドレストラン」です。“カレーライス、スパゲッティ、食べたいのは君のからだ”という下りは強烈です(笑)。
今回の曲の中で一番最初にできた曲だね。そこにその2品を入れたのは、俺なりの冒険。自分しか作らないような音楽と歌詞を目指す上でのね。ジャンバラヤは、最初はピザだったんだけど、どうも言葉の座りが悪くて。
セイジさんの食生活を垣間見ているようです。
でも、さすがに親子丼は違うなって(笑)。男の子の素直な願望を描いた曲。『ロッキーホラーショウ』にも通じるかな。
「ビルディング Z」は、昭和の特撮映画の世界観ですか?
うちの部屋はマンションの9階で富士山が見えるぐらい景色がいいんだけど、最近横に高いビルが立ち始めて邪魔なんだ。それがどこかに飛んで行かないかなという俺の願望から生まれた曲(笑)。ビルがあまりにも立ち過ぎていて、ビルが怪獣になっていつか人類に反撃するんじゃないかって。カッコ良く言えば文明への警鐘というか。ZはマジンガーZから取ってる。
イントロがエルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」ですね。
幕が開いて、その向こうからビルが視界に飛び込んでくるようなイメージにピッタリだと思ってね。恐怖の劇場の幕が上がっていくんだ。昭和の歌謡曲やロックが好きだから、その辺に通じる部分があるかも。
やさぐれた女性をモチーフにした「デビルクチビル」もまた、昭和歌謡の香りが漂う曲ですね。
これは結果的に寺山修司の世界観に近いものになった。最初は“くちびるの悪魔”で、それが“クチビルデビル”になったんだけどそれじゃ普通だなと悩んでいたら、ある瞬間前後逆転して“これだ!”と。妖怪人間ベラのクチビルのイメージだね。絶世の色っぽい姉ちゃんへの挑戦。
「エジプトロック」は、音楽的にも冒険してますよね。
音楽的にもタイトル的にも冒険だよ。練習でやる時も恥ずかしくて、ちょっとぼかして言ってたし(笑)。最初は“エジプトデート”だったのが、硬派さが足りないってことで“エジプトロック”になったんだ。
そもそも、なぜエジプトなんですか?
エジプトでライヴをやるのがギターウルフの昔からの野望なんだ。ロックと融合しない場所でロックをぶちかましたいという欲求。もう『ライヴ・アット・エジプト』のジャケットの案だけはできてて。ピラミッドの前で皮パン皮ジャンの3人がラクダにまたがっていて、そのラクダの前にカワサキのエンブレム(笑)。裏ジャケは、巨大なテントの中に美女を従えてアラブの王様がいて、その真ん中でギターウルフが演奏しているという。
ということは、この曲はそのライヴ実現へ向けた序章?
まさしく。その時はもちろん1曲目はこれ。というか、そのために書いた曲(笑)
もし「ビルディング Z」が近代文明への挑戦なら、この曲はギターウルフの古代文明への挑戦かもしれないですね。
そう。未知のものへの憧れという意味では『UFOロマンティックス』にも通じるかな。そういうのが好きなんだ。
「ジェット サティスファクション」は一番最後にできた曲とのことですね。
そう。ストーンズの『サティスファクション』があるからこのタイトルで心配だったんだけど、“ジェット”を付けたら何か全然新しいものに思えて。歌詞は自分に“ジェットに満足できるものは何だ?”と問うて、その答えを書き連ねた。
“ビリッと破ってジェットフューチャー”という歌詞は、今のギターウルフの勢いが表れていると思います。
野望達成の気持ちの表れ。他の4曲も自信はあったけど、この曲がなかったらミニアルバムとして成立しなかった。まさにギターウルフの王道。結局、そこに戻ってしまうんだよね。
レコーディングは、これまで通り一発録りですか?
もちろん。3人で顏を合わせて“せーの!”っていう。そうじゃなきゃ、気合いを録音できないから。昔のカッコ良いパンクバンドが、ある時点からすごく音はキレイになったことがあったんだけど、同時に昔のパワーが感じられなくてガッカリしたことがあったんだよね。だから、俺たちはこの方法にこだわるんだ。
これから全国ツアーがありますが、1月24日の恵比寿LIQUIDROOMを最後にまた半年間活動停止するんだとか?
今度はボルトを抜く手術。入院は2週間ぐらい。前は2カ月だったから、それに比べると何てことはないよ。
また入院生活からインスパイアされた曲が生まれるかもしれないですね?
『監獄ロック』ならぬ『看護婦ロック』とか? それはさすがにマズいでしょ(笑)。前回は看護婦に目を奪われすぎたけど、今回は気を抜かず、アンテナを張り続けるよ。
もしこのアルバムを漢字一文字で表すと?
“挑”かな。それぞれの曲で異なった挑戦をしているから。中でも自分として一番大きい挑戦は『エジプトロック』
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『ジェット サティスファクション』2009年12月23日発売Ki/oon Records
- 【初回生産限定盤(DVD付)】
- KSCL 1528〜9 2000円