【奥華子】作っている段階で手応えが
あった

前回のインタビューの時に、黒メガネにし、スカートを履くようになった心情を話してくれた奥 華子。そんな彼女の現在のモードがニューアルバムにパッケージされており、同作について“新しい自分に出会えた”と語るのだった。
取材:石田博嗣

前々作『BIRTHDAY』は歌うことの意味みたいなものがアルバムの根底にあったし、前作『うたたか』は自分の深いところを切り取ったディープなアルバムで、明暗がはっきりとした2作だっただけに、今作はそれを踏まえた上で前に進んだのかなと。両端に振り切ったら、軸をしっかりと持った上で前に出るしかないというか。そう考えると、黒メガネやスカートに変わったというのも、この時期だからこそだなと思ったのですが。

おー、そうですね。まだ客観的になれないんですけど(笑)。曲もベースになるものはあったんですけど、ほとんどが2011年に作ったもので、このアルバムに向けて作ったんですね。アルバムのコンセプトとか方向性はまったく考えてなかったんですけど、13曲を作り終わった時にタイトルを決めないといけないってなったんで、“good-bye”に決めて、最後に『GOOD BYE!』という曲を作ったんですよ。

「GOOD BYE!」はタイトルありきだったんですね。“今までの私にGOOD BYE!”という内容で、アルバムの軸にもなっているので、この曲のタイトルが付いたんだと思っていました。

でも、そういう思いがあって、“good-bye”というタイトルをアルバムに付けたんですよ。だから、何に“good-bye”なのかを示したいと思って、最後に『GOOD BYE!』を作ったんです。

では、アルバム曲を作る時にはどんなことを意識して?「シンデレラ」の時のようにキラキラのポップソングを作りたいとかはあったのですか?

あまりなかったですね。でも、今までのアルバムの中で一番、バンドで一発録りしようか、作り込んでいこうか、弾き語りにしようか、と構想を練ったり、試した期間が長かったですね。

それでなのか、アレンジが振り切ってますよね。

そうですね。今までって守りに入っていた部分があったというか。“これでいんじゃない。奥 華子っぽいし”みたいな感じがあったんですね。でも、今回は…例えば、『TAKOYAKI』みたいなお遊びで作った曲は、今までの奥 華子だと入れてなかったですね。

そういうものも入れようと思えるようになったのは、先日のバンド形態でやったツアーが影響しています?

ありますね。あのメンバーとの相性がすごく良かったので、『愛してた』とかは“この人たちとじゃないとできない!”と思ったし。何も言わなくてもコード感だったり、タイミングが合う…だから、もうセンスですよね。そこに惚れているので、あのツアーで得た信頼関係というのが大きく影響してます。あと、今までのアルバムって自分でピアノを弾くことが基本で、そこに味付けをどうするかって感じだったんですけど、今回は弾き語りの曲以外はアレンジャーさんに委ねている部分が多いんですよ。そういう意味では、楽になりましたね。今までは自分の世界に向き合うあまり、周りが見えなくなって路頭に迷うことが多かったんですけど、今回はあまり迷わなかったし、すごく明確だった…“この曲はこうするから、歌はこれでいいんだ”っていうのが見えていたんですよね。それもあって、思い切れたというか。自分のテンポ感じゃないんですけど、それが音楽として聴きやすかったりしたし、自分だけで完結してないところが積み重なっているのかなって思います。歌入れに関しても、アレンジャーのYANAGIMANさんと一緒にやった時に、グルーブ感を大切にしてもらったんですよ。今までグルーブって気にしたことがなかったんですけど、“一定テンポのリズムに対してどう歌を乗せるのか?”とか、すごく新鮮でした。

歌詞に対してはどうですか? 別れの曲が多く、特に「君にありがとう」は死別を想像してしまったのですが。

『君にありがとう』は声優の豊崎愛生さんに提供した曲で、彼女が飼っていた実家の犬が天国に逝ってしまって、それまでの思い出や“今までありがとう”という思いを綴った歌なんですよ。だから、いろんな別れの曲がある…男女の別れもあるし、卒業もあるし、自分自身との別れもあるんですけど、自分では前向きなアルバムだなって思ってます。

別れの曲でも前を向いてますものね。そんな中で、「悲しみだけで生きないで」は絶大なインパクトを放っていますが。

今回のアルバムは2011年に作った曲が多いので、震災の影響が直接ではなくても出てしまうんですけど、その中で『悲しみだけで生きないで』は直接的に作った曲なんですね。被災地に行った時に避難所で出会った女の子からもらったメールを基にして作った曲なので、アルバムに入れない方がいいのかなと迷ったんですけど…でも、震災ってことだけじゃなくて、私自身が今感じてることを歌ってるんですよ。何のために生きるとか、誰かのために生きるとか思っていても、本当のところで分かり合えたり、助けることなんてできないと思っていて…。自分自身を一生懸命に生きていくことでしか、人とはつながっていけないし、結果的にそれが誰かのためになっているかもしれないって思ったんですね。なので、この曲は聴いてもらいたいなって。だけど、直接的すぎるし、聴きたくない人もいるかもしれないと思って、このアルバムの最後の曲は12曲目の『GOOD BYE!』で、結構曲間を空けて13曲目に入れました。で、その後に『足跡』が入ってるんですけど、それはこの曲のメッセージが最後に入ることで救われるかなと思って。

本作が出来上がった時の達成感は、やはり今までのアルバムと違いました?

作っている段階で“いいアルバムになる”っていう手応えはありましたね。それは明確だったからだと思うんです。迷わなかったんで。“こういうものを作りたい”に対して、そういうものができたし…曲もアレンジも歌も“本当はこうしたかったのに”っていうのがないんですよ。バンドのメンバーと録ったことで、自分の想像外のところで生まれたものもあるし、初めてのアレンジャーさんに委ねたりしたことで、新しい自分に出会えたし、“それもアリだな”って思えたことが大きいですね。
『good-bye』
    • 『good-bye』
    • PCCA.03539
    • 2012.02.22
    • 3000円
奥華子 プロフィール

オクハナコ:シンガーソングライター。キーボード弾き語りによる路上ライブをはじめ1年間で2万枚のCDを手売りし驚異的な集客力が話題となり2005年メジャーデビュー。劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌「ガーネット」で注目を集める。聴く人の心にまっすぐ届く唯一無二の歌声は年齢問わず幅広く支持されている。また数々のCMソングや楽曲提供を手掛けるなど活躍の場を広げている。奥華子 オフィシャルHP

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