【見田村千晴】より誠実に、素直に、
自分の思いを投げかけた

人間の多様な感情に迫るシンガーソングライター見田村千晴が2ndミニアルバム『寝そべった夕暮れを切り裂いてバスはゆく』を発表。“どう言ったらいいのか分からない”といった思いを鋭く表現した楽曲が集まった一枚となった。
取材:桂泉晴名

今回はもともとあった曲でなく、ほぼ新曲だそうですね。

5曲目の「花嫁」や6曲目「センチメンタル」など断片がすでにあった曲もありますが、過去にライヴでやっていた曲は一切なくて。ミニアルバムを作ることになって最初に“あ、いいな”となったのは2曲目「もう一度会ってはくれませんか」。この曲が作品の軸になっていますね。

タイトルの“寝そべった夕暮れを切り裂いてバスはゆく”は「もう一度会ってはくれませんか」の詞にある言葉ですが。

タイトル決めはいつも悩むんですけれど、このフレーズは歌詞を書いた時からいいなと思っていました。時間の経過で移り変わっていくもの、そしてその中で消えていく、忘れ去っていく心の揺れ…。そういったものを切り取った曲たちがこのミニアルバムに収録されているんじゃないかな、という思いもあって。最終的にこのタイトルに決めたんです。

冒頭の曲「レプリカ」はとても勢いのある曲ですね。《泣いた ビンのふたが開けられなくて泣いた》という強烈なインパクトをもたらすフレーズが、まず飛び込んできます。

すごく景気よく始まります(笑)。齊藤ジョニーさんがバンジョーを弾いてくれていて。今回は見田村千晴らしさを出すという意味で、鍵盤楽器じゃなくて、シタールや12弦ギター、ギタレレといった弦楽器を使っているのも特徴です。あと、この曲はサビの部分でウッドベースからエレキベースに変わるんですが、ウッドからエレキになることで曲の世界が違う色になっていって、すごくはまりました。さらにミックスしていただいた時に、この曲が一番変化したんですよね。音のキラキラ感や勢いがより出て、カッコ良さが増しました。

そして、タイトルにも使われた「もう一度会ってはくれませんか」。ピアノと打ち込みのフレーズが淡々とループしている上に、見田村さんの切々とした語りが乗っていて。

すごく中毒性のある曲になったと思います。私はヒップホップも好きだし、詞の言葉数が多いところが通ずるから、こういった要素を取り入れると面白いんじゃないかなと。

この曲を作るにあたっては“一瞬の生々しい喪失感を切り取りたいと思った”そうですが。

例えば、“恋人が今日急にいなくなっちゃったら、どうするんだろう?”と考えたり。あと、私は亡くなった自分の祖父母がどういう学生時代を過ごしたとか、どういう恋愛をしたとか、全然知らなくて。大人になってくると、そういうルーツに対する興味って出てくるじゃないですか。でも、絶対にもう本人から聞くことはできない。それは悲しいなと思って。考えてみると、今、周りにいる家族や友だちのことも、知っているようで知らないことがいっぱいあるんですよね。そういうことを考えている時に、この曲を書きました。

確かに、身近な人のことこそ知らないものですね。次の「砂のお城」は家族の間に流れる不安定な空気を描いたそうですが。

一般的に“家族”ってほんわかしているイメージだけれど、実はすごく閉鎖された関係性じゃないですか。一番生々しくて、怖いものだったりする。特に母と娘は。あまり親には聴かせたくないですね。私自身も無意識だけれど、とらわれているところはあるんじゃないかと思います。

4曲目の「MUSIC」は《音楽なんか聴きたくはない そんな日があるよ》と隠された本音に迫った詞にハッとしました。

ひねくれていますよね。何の邪念もなく“音楽が大好き”と言えるのは憧れるし、いつか自信持って言えたらと思っていますけれど、自分はまだ全然そう言えないですから。

《今の自分じゃあの子に会えないよな》や《ライブになんか行きたくはない》という思いはとても正直な感情だなと。

すごく認めていて好きな相手だからこそ、自分の力量不足を感じて凹むんだろうな、と思ってしまうんですよね。だから、行くまでに“どうしよう。断っちゃおうかな”と考えたりして。でも、行って後悔することはないんですけどね。

でも、最後は“音楽から逃げないぞ”と決意表明があって。

そうじゃないと、救われないというか。自分がもし将来辞めようと思った時、本当に辞めちゃいそうなので(苦笑)。

5曲目「花嫁」は友達のために書かれた曲だそうですね。

結婚式の前日の夜に書いた曲です。結婚ソングはたびたび頼まれるけど、私の曲ができる遅さをみんな知らないんですよ。

じっくり時間をかけて曲を作るタイプなのですか?

時間はかかります。歌詞から書いたりするので、余計に。そして、時間がかかればかかるほどメロディーが固まってきてしまうし、先にバンドが録音すると、もうメロディーを変えたくても変えられない。余計にしばりが出てきて、だんだん身動きが取れなくなってくる。それは自分の課題でもあります。

最後は弾き語り「だいたい思ったとおり」で締めですね。

この曲は音の温かみを考えてプロデューサーの松岡モトキさんからギターを借りて弾きました。いつもと感覚が違うし、押さえる角度を間違うと音が出なかったりして、ドキドキでした。

今回のミニアルバムは見田村さんにとってどんな作品になったと思いますか?

自分が5年後、10年後に振り返って聴いた時に、何か拠り所になる作品になったかなと思います。また、聴いてくれる人に対して“こうしようよ”という感じではないのですが、だからこそより誠実に、素直に、“私はこういうことがあって、こう思ったんだけれど、どう?”と投げかけていて。これを聴いて“うまく言葉にできなかったけれど、こういうことがあった”とか“こういう気持ちは自分だけじゃないんだ”と安心してもらえる人がいたらいいな、と思います。

5月10日には待望のワンマンライヴがあって、楽しみです!

メジャーになってから初めてのワンマンですが、まだまだこの先の可能性も見てもらいたいし、今までのことも見てもらいたい。とにかくいいライヴがしたいなと思います!
『寝そべった夕暮れを切り裂いてバスはゆく』
    • 『寝そべった夕暮れを切り裂いてバスはゆく』
    • VICL-64146
    • 2014.04.16
    • 1800円
見田村千晴 プロフィール

ミタムラチハル:岐阜県生まれ。2011年タワーレコード主催オーディション『Knockin’on TOWER’s Door』にて準グランプリを獲得し、同年6月に1stアルバム『いつかのように』をリリース。13年9月、ミニアルバム『ビギナーズ・ラック』で待望のメジャーデビューを果たす。同作収録の「悲しくなることばかりだ」は桑田圭祐が年末に選ぶ『邦楽ベスト20』の4位に錚々たるアーティストに並んでランクインした。15年3月には第1期集大成となるメジャー1stシングル「わたくしどもが夢の跡」、4月にメジャー1stフルアルバム『正攻法』を発表!見田村千晴 オフィシャルHP
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