【aiko】今の自分だから書けた曲ばか
りです

aikoが1年11カ月振りとなる11枚目のニューアルバム『泡のような愛だった』をリリースした。そこに収録される全13曲には、儚くて、切なくて、温かい恋愛にまつわる感情が今のaikoの視点で瑞々しく描き出されている。
取材:もりひでゆき

新しい雰囲気の曲をたくさん 作ること
ができました

今までにないaikoさんが堪能できるアルバムですね。

1曲目(「明日の歌」)からかなり早口で歌ってますからね。今回はほんとに新しい雰囲気の曲をたくさん作ることができたなって思うのと同時に、ちょっと昔に戻ったというか、そんな感じもあったりするんですよ。

あぁ、確かに「明日の歌」の言葉数が多い歌詞のスタイルは、デビュー初期の楽曲に近い匂いもありますもんね。そうなったのには理由があるのですか?

今の自分が思っていること、感じていることを全部言葉にしようって改めて思うようになったんです。だから、メロディーの譜割りを考えたりもせず、とにかく想いをバーッと書き留めて、それを歌にしていったんです。ずっと曲作りを続けてきた中で、例えばこういう言葉を選べば短く表現することができるなとか、そういうことを考えがちになっていたところもあったんですけど。

使う言葉を吟味しながら、整理して歌詞を書き上げるスタイルというのは、ある意味この15年で築き上げて自分なりのルールでもあったわけですよね。

そうですね。デビュー当時はほんとに言葉数の多い曲ばかり作っていたから、当時のスタッフに“もうちょっと言葉が少ない曲を作ってみたらどう?”って言われたことがあって。そこからそういうことを意識するようになって、続けていくうちにそれがひとつのかたちになっていたんだと思います。でも、そういうルールみたいなものを崩して、また違った表現をするにはどうしたらいいのかなっていうのは常に考えていたんです。それが今回はちゃんとかたちになったのかなって思いますね。

本作は全体的に言葉数が多い印象がありますけど、「あなたを連れて」というバラードのように、限られた言葉数の中で強い思いをしっかり表現されているものもあって。そういうスタイルもやっぱり素敵だなぁって思ったりもしましたよ。

この曲は構成が少し変わっていて、Aメロからサビにいって、そのまま大サビ→サビ→Aメロで終わる曲なので歌詞も短いんです。でも、言いたいことはたくさんあったので、短い言葉の中に想いをどうやって詰めようか少し悩みましたね。

言葉が少ない分、想いがギュッと濃縮されているからそれぞれのフレーズがより強く響いてきます。

自分としては、サビの《どこかで心が繋がっていると勘違いしてるあたしと 最後はひとりなんだと 冷めた笑顔の得意な優しいあなたと》という歌詞が気に入ってますね。一見冷たいように感じるかもしれないですけど、私は愛の言葉だと思っています。

全ての曲に対して言えることですが、今回の歌詞にはすごく大人っぽい印象があります。つまりそれは今のaikoさんの気持ちがストレートに投影されているからなんでしょうね。

自分でも歳を重ねてきたんだなっていうのは改めて思いましたね。今の自分だからこそ書けたものばかりというか。だから、読み返すとまだちょっと自分でも“う~”って苦しくなってしまうこともあるんですよ。曲を書いた時の想いが蘇ってきてしまうから。でも、それくらいほんとに思っていることだけを書けたっていうことなんだと思います。

大人っぽさを感じさせるとはいえ、恋愛にまつわる感情は瑞々しさを一切失っていないのもaikoさんらしいところだなと。

そこはまったく変わらないところなんですよね。20代前半の頃には、私も30歳を越えたら恋愛に対する気持ちが落ち着いてきちゃうのかなって思ったりもしたんです。でも、いくつになっても恋愛をすると胸が痛くなるし、悲しいし、涙も出る。自分にとってとても大切なものだということにはまったく変わりなかったんです。“年甲斐もなく恋愛の歌ばかり歌って”みたいなことを言われる年齢になってしまったんですけど、私は年齢にとらわれて生きていくのはすごくもったいないと思うんです。だから、私はこの先も自分のいろいろな想いを言葉や曲にして、苦しいところから抜け出していこうとするんだろうなって思いますね。

変わらない想いを大切にしているからこそ、aikoさんの楽曲は年月が経っても色褪せないんでしょうね。過去の楽曲であっても、感情的な部分には違和感がまったくないっていう。

あぁ、確かに。ライヴで「愛の病」(2000年発売のアルバム『桜の木の下』)の《いつか嫌いになられたら...》というフレーズを歌うたびに、今でも同じこと思ってるなぁって思いますからね(笑)。

幸せな状況であっても不安になってしまうaikoさんの“愛の病”は…

今のところ変わってないですね。だからそこはもう、歳を重ねたとしても自分に素直に、曲にしていこうって思います。

本作の曲で言うと、「キスの息」もかなり不安に襲われていますよね。

そうですね。キスの息ってなんかものすごく特別じゃないですか。人の息がほっぺたに当たるとかって、すごい距離やなって思うから。その瞬間だけはいろんなことを忘れられるんですよね。

この曲の《上手にキスが出来やしないや だけど怖いくらい繰り返した》というフレーズにはかなりドキッとさせられました。

ほんとですか? 大丈夫かなぁ。行きすぎてないかなってちょっと不安な気持ちもあったりはするんですよ。自分の中であまり露骨になりすぎる表現は書かないようにはしてるんですけど。

嫌でもそういう表現ができるようになったっていうのが、今のaikoさんを鮮明に感じられるところでもありますよね。“ここまでは書いても大丈夫”っていう、ご自身の中のジャッジポイントも年々、変化してきているのではないですか?

そこは変わってきてますね。そこに対してのジャッジは気を付けないとなって思います。

なおかつ、今までにない切り口や表現にトライしようともされているでしょうし。

そうですね。今回で言えば「遊園地」とか。部屋の隅にあったホコリと大切な人との思い出を窓から捨てるっていう歌詞ですからね(笑)。ちょっと新しい書き方ができたかなとは思います。

ほんとに新しい雰囲気ですよね。なんでそういう歌詞が出てきたのでしょう?

大事なものは取っておけば取っておくほどいい思い出になって残るとは思うんですけど、大事という想いがピークの時は苦しさや辛い気持ちもピークになるんですよ。だからと言って、ピークの時に捨ててしまうと、逃げてしまった気分にもなるし、負けた気分にもなる。

確かに。でも、この曲の主人公は捨てることを選んだわけですよね。

そうそう。だからこそ、“ホコリと一緒に窓から”くらいな気持ちじゃないと捨てれなかったという(笑)。

アッパーなサウンドと相まって清々しいですけどね、この曲で描かれている感情は。未練もすっぱり断ち切っている感じがして。

この曲はスカでやりたいなと思ってアレンジのリクエストをしたんですよね。低いところまで動くBメロの歌が大変でしたけど、レコーディングはすごく楽しかったです。はやくライヴで歌いたいなって思いました。

この曲ではフェイクもすごく印象的に響いてきました。

ありがとうございます。最近はフェイクをあまりしてなかったんですけど、この曲はフェイクに、コーラスとして(フェイクを)重ねるということを試しにやってみたんですよね。そうしたらプロデューサーも気に入ってくれて。フェイクを入れるとそのポイントがキュッと締まるので、それがハマるとすごく嬉しいです。

OKMusic編集部

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