ついに完成したニューアルバム『DAWN』。“夜明け”の意味を持つ言葉をタイトルに掲げ、UVERworldや清木場俊介といった他ジャンルのアーティストも参加する意欲作について、AK-69は“新章という感じがする”と語った。
取材:石田博嗣

自身で立ち上げた新事務所とレーベル『Flying B Entertainment』の第一弾アルバムであり、ヒップホップの名門レーベル『Def Jam Recordings』移籍第一弾アルバムでもある、“夜明け”をタイトルに掲げた今回のアルバムの制作はいかかでしたか?

いい意味で肩の力が抜けた感じだったというか、Def Jamからの第一弾ということで意気込むかなと思っていたんですけど、そうでもなかったですね。スケジュールもタイトだったんですけど、意外と自然にできました。11月23日を発売日にしたのも、自分が決めたわけではなく、レーベルの方にこの日がベストだって言われたからなんですけど、みんながベストだと思う日に間に合わせるのも自分の器量だと思うから…シングルの曲以外全部を7月のツアーが終わってから作ったんですけど、曲もスルッとできたし、アルバムの制作も行き詰ることなく終わりました。11月22日が盟友のTOKONA-X…Def Jam Japanと契約して、その1stシングルで当時ペーペーだった俺を客演で呼んでくれたりしたんですけど、志半ばで亡くなってしまって。そんな彼の命日なんですよ。あれから十数年が経って、自分がきっかけでDef Jam Japanが復活して、彼の命日の次の日に“夜明け”というタイトルに掲げて、自然にできた…導かれるようにできたアルバムを出すというのは運命を感じますね。

その想いは1曲目の「DAWN」に綴られていますね。

いつもオープニングの曲を最後に作るのが自分のセオリーなので、いろんな想いを込めてリリックを書きましたね。

そんな本作ですが、フィーチャリングの選出も含めて、どんなアルバムにしたいと思っていたのですか?

フィーチャリング陣の選定は、UVERworldだったり、清木場俊介くんもそうですけど、自分の作品で他ジャンルのアーティストを呼ぶというのは初めてで。それもレーベルが言ってくれたんじゃなくて、自然とつながって仲良くなったんで、今回お願いしてみたら2組とも快諾してくれたという。しかも、両者とも他のアーティストの作品に客演するのが初めてらしいんですよ。UVERworldなんてフィーチャリングは“ここぞ”と思う時にやろうと思っていて、その“ここぞ”と思う時が今だったって言ってくれたり。それだけ心が通じ合うものがあったからこそ、両者ともすごくいい曲ができましたね。あと、自分のレーベルのCITY-ACEとHIDE春。すごくいいシンガーたちなので、それをアピールしたかったんですよ。若い2WINのT-PABLOWとYZERRは、自分がかつて地方出のラッパーとして頑張っていた時に…これは当然のことなんですけど、第一線で活躍してる人にフックアップしてもらえなかった。だからって、俺も“お前ら這い上がってこいよ”みたいな感じになるんじゃなくて、ここまできたからこそ若い連中とやってみたかったんです。で、どうせだったら自分の若い頃を見ているような、ストリートだったり、荒んだ環境から這い上がってきた地方発の奴をフックアップしたくて。あとは、同い年で尊敬する般若にも参加してもらって。言ってみれば、彼はライバルみたいな存在ですね。

UVERworldや清木場さんとのフィーチャリングもあって、楽曲のバリエーションも含め、すごく間口が広がりましたね。

ほんと自然なんですけどね。前回までのアルバムと何が変わったかと言うと…前回のアルバムはストリートからの成り上がりのストーリーの最終章みたいなものだったから、タイトルも“王座”を意味する“THE THRONE”だったし、王座目線の歌だったんですよ。でも、今回は事務所を立ち上げて、Def Jamと契約することもできて、また挑戦者になったからこそ、“やってやるからな!”っていうアティテュードが戻ってきたというか。そういう曲が自然と多くなったから、広く伝わりやすいものになったのかもしれないですね。“やってやるぜ!”と思っているような若い子たちはもちろん、夢を忘れられない俺たちぐらいの歳やもっと上の人たちにも、自分を重ね合わせやすい内容になってるんじゃないかな。

それはありますね。その言葉通りの「Forever Young feat. UVERworld」ですが、AK-69さんとTAKUYA∞くんの考えていることは同じなんだなと思いました。

スタイルとか全然違うんだけど、すごい共通する芯みたいなものを感じますね。そもそも俺とTAKUYA∞をつないでくれたのが、舞台で役者をやっているっていうTAKUYA∞の後輩なんですけど、UVERworldとAK-69しか聴いてこなかったというガチな子なんですよ(笑)。TAKUYA∞に“TAKUYA∞さんとAKさんは絶対に合うと思うんです!”ってずっと俺の歌の説明をしていたみたいで。俺とUVERworldは合宿のスタジオが一緒だったりして、特に交流はないんですけど、他で会ったりすると会釈したりはしていたんですね。で、K-1の試合を観に行った時にTAKUYA∞が後輩と一緒に来ていて、その後輩の子からいろいろ聞いていたってのもあって話しかけてくれて…そこからですね、急速に仲良くなったのは。

では、この曲はどうのように作っていったのですか?

自分名義なので俺がトラックを選んで…3曲くらい選んだのかな? しかも、3曲目はUVERworldと一緒にやることを意識してバンドっぽいトラックを作ってもらったんですけど、TAKUYA∞は“どれでもいいですよ”って言ってくれて、結局、俺が一番気持ちの乗る最初のトラックになって。TAKUYA∞もUVERworldとして客演するのが初めてだし、どうせだったらって“トラックに付いているサビやコードをめちゃくちゃにしていいっすか?”と言ってきたんで、俺も“好きにやってくれていいよ”と。そしたらサビのコードも変えて、バースもプリフックみたいなところもUVERworldに元のトラックを基にアレンジしてもらって、最後にどんどん歌詞を乗せていきました。やり取り自体はすごいしたんですけど、スムーズだったし、やってて楽しかったですね。最初に“Forever Young”っていうお題だけ決めてたんですけど、それも俺たちっぽかったなって。

“Forever Young”をテーマにした理由というのは?

TAKUYA∞とは歳が近いというのもあって…前にも言ったと思うんですけど、『Flying B Entertainment』を立ち上げる時、気付いたらヒップホップ界の頂にまで来たけど、音楽業界的に言ったらそんなに大したことではないって、そこで初めて立ち止まった感じがあったんですね。でも、またこうやって挑戦者として音楽に挑むマインドになったら、すごく視界が変わったというか。30歳後半になって“ヒップホップとか、音楽をいつまでやってられるのかな?”って考えていた時期もあったんですけど、TAKUYA∞に会って“どこまででもいけるんだな”って改めて思わされたんです。それぐらいTAKUYA∞ってエネルギーの塊みたいな奴なんで。なので、そのテーマが出たっていう感じですね。マインド次第でどういうふうにでも塗り替えていけるっていうのを、若い人もそうだし、歳を取った人にも訴えたかった。

「Rainy days feat. 清木場俊介」も耳を引きますが、清木場さんと一緒にやるのようになったいきさつは?

共通の知り合いがいて…さっきのTAKUYA∞の話じゃないんですけど、“清木場くんとAKさんは絶対に合うはずだから”って俺と清木場くんを会わせたいって言ってて、ふたりで日比谷野音のライヴを観に来てくれたんですよ。その時は自分でも会心のライヴができたと思ってるんですけど、それを観た清木場くんが俺の音楽に惚れ込んでくれて。そこから仲良くなったんで、ダメもと言ってみたら快諾してくれたという。

ふたりでどんな曲をやろうと?

清木場くんが男のバラードをやりたいって言ってたので、俺がソースとなるトラックを選んだり、歌の世界を考えて先に歌詞を書いて伝えたって感じですね。清木場くん的にはもっとスローなものをやりたかったみたいなんですけど、俺は絶対にこのトラックに清木場くんの歌が乗るとヤバいものになると思ってたんで、それで推し進めたら、清木場くんも“やっぱ、これいいっすね”って(笑)。

AK-69さんのラップ部分とサビの清木場さんの歌声との対比が面白いというか、味わい深いですね。

そうですね。俺が作ったメロディーを清木場くんが歌ってくれていて…ブリッジは清木場くんのメロディーなんですけど、それが見事にマッチしてるなって。自分が作ったメロディーなのに、他人が歌って、他人が書いた歌詞が乗ると、全然違うものになるっていう驚きもありましたね。なかなか交わりそうにないんだけど、自分にはない声の良さが際立っているなって。やっぱりいいアーティストって声を発せれば、もうその人の世界になるんですよ。清木場くんも歌えば、一瞬で清木場俊介の世界になる。

そして、注目したいのが「もう1ミリ feat.般若」。過去にも般若さんとはやられていますが、このタイミングで一緒にやろうと思った理由は?

前にやったのはもう8年ぐらい前で…もちろん、そのあとも会う機会はあったし、最近では一緒にゲームの大会のテーマソングを作ったりもしていて。あと、東京でトレーニングしている場所が一緒なんで、一緒にトレーニングしたりして、一緒になる機会が多くて。般若も般若で今、新しい場所で闘っていたりするし、共感し合えるところがあるんですよね。だったら、今が一緒に曲を作るタイミングかなって。般若がなかなか客演に呼んでくれないから、俺が呼びました(笑)。

ふたりの信念が同じというか、スタイルや生き様が似ているというのがリリックに出ていますよね。

タイプは全然違うんだけど、芯の部分に共通するものがあるんですよ。般若って面白いこともするじゃないですか。ふざけたカッコ良さがあるというか(笑)。そういうのもやってみたいとは思ったんですけど、今回のアルバムのテンション的な部分では、般若の真剣な部分を出したほうがいい…俺も今、真剣なんで。さっきのトレーニングの話になるんですけど、一緒になる時ってお互いに情けないところは見せられないから、逆にトレーニングの強度が上がるんですよ。そこでトレーナーが言うのは、“もうダメだ”ってところからが今日のトレーニングだと。で、最後に“今日も1ミリ成長できましたね”って声をかけられていたんで、まさにふたりで歌うんだったら、テーマはそこだなって。

キーワードはリフレーンされる“Champion’s Road”で?

いえ、キーワードは“もう1ミリ”です。追い込まれてからが勝負だってことで。“Champion’s Road”って歌ってますけど、チャンピオンになることだけが全てじゃないし、自分と闘うことがないと、その先は何もないって日々感じているので、そこですね。自分の限界を超えるのって簡単なことではないから、その気持ちの部分です。

他にもメロウでハートフルな「Baby」や、硬派に攻める「Streets feat. 2WIN(T-PABLOW & YZERR)」もあってバリーションのあるアルバムになっているのですが、その中でも「Hangover」が異質で。

アルバムの中で、この曲だけが堕落的ですね(笑)。俺のイメージって熱くて、“お前ら諦めるんじゃねぇぞ”って言ってる…まぁ、だからこそアスリートの方とかに聴いてもらえていると思うんですけど。でも、人間なんでやっちまうこともあるんですよ。ここは人間味が出ていていいんじゃないかなって(笑)。

歌詞はタイトル通りですけど、浮遊感のあるトラックとオートチューンのかかった歌声が印象的で、アルバムの差し色にもなってますね。

そうですね。クラブチューンとしていいかなって。アルバムの曲がどんどんできてきて、「Hangover」の置きどころに困るかなって思ったんですけど、この曲が入ってて良かったなって思いますね。これ、ほんとに歌詞通りなんですけどね。酔っ払って記憶がなくなる時ってちょいちょいあるんですけど、この時は目が覚めた時に“え! 何が起きたんだ!?”って(笑)。なので、それをすぐに曲にしました(笑)。

(笑)。さまざまなアーティストの客演があったり、いろいろな方向に攻めていたりして、以前のインタビューで“自分の城をビルドアップするためにも独立した”と言っていましたが、その言葉を実証するようなアルバムになったのではないですか?

自分でもすごく手応えがありますね。意識して配分したわけではないのにいいバランスになったのも、全てはマインドによって導かれるんだなって改めて思うし。挑戦者の時って何も考えていないっていうか、ダメでもともとだし、失うものもないんですよね。でも、ある程度のところまでくると、途端にリスクが大きくなる。“ここでこけたらどうしょう”とか“この曲が受けなかったらどうしょう”とか、そういう今まで考えなかったことを考えるようになって、自分で自分の世界を狭くしていたなって。今は“やってやっからな”っていうところに気持ちが戻れたんで、そこから生まれるものって自然とこうなるんだなって思いましたね。

気持ちは戻っても、これまでのキャリアで培われたものがあるから、それはそれで武器となっていますしね。

そうですね。スキルの部分はアップデートされたまま、アティテュードだけ戻れたというか…だから、音楽を作るということにおいても、メッセージを放つということに対しても、ほんとに新章という感じがします。AK-69として成り上がりの部分を十分にアピールしたあとに、人間として歌いたことを歌ったという。それがすごく新鮮でしたね。

そして、最後に《メルヘンじゃなかっただろ? 不可能をも可能 このメロディがこだまする》《何度も夢に見たような夜明けが来る》と歌うオープニングの「DAWN」が生まれたわけですよね。

俺は特別な才能があったわけじゃないけど、こうやって自分の想いが現実になったってことを言いたかったんですよ。みんなにもチャンスはあるし、マインド次第なんだってことは、一貫して伝えたいことなんです。あと、この曲の最後に《灯火消えた友へと捧げる》って、亡くなったTOKONA-Xに捧げると歌ってるんですけど、最後の曲「KINGPIN」の一番最後の台詞で“名古屋、そしてT-Xに捧げる”って言っていて、そういう言葉で挟んでいるっていうのも、全部意味がつながったなって思いますね。

このアルバムを出したあとのツアーというのは?

今、まさに計画中です。いろいろ企んでいますよ。今までのヒット曲が入ったセットリストの大枠を変えることって難しいんですけど、早くライヴをやりたいと思うアルバムになったから潔く変えれそうな気がしているので。楽しみにしておいてほしいですね。

あと、シーン的なところの意見もうかがいたいのですが。『フリースタイルダンジョン』が話題になっていたり、アイドルでラップをするlyrical schoolが頑張っていたり、NakamuraEmiやiriのようにヒップホップをルーツに持つシンガーソングライターが出てきたりして、かつてロックが一般層に広がっていったように、ヒップホップがどんどん広がっていますが、この現象をどう見ていますか?

確実に広がっていますよね。お茶の間にも浸透している…それこそCMでも大人と子供がラップしていたりするし。そういうのって今までなかったじゃないですか。『フリースタイルダンジョン』はヒップホップの中でも極地的なところが突出してますけど。

ディスり合っていて、ちょっと怖かったりしますが(笑)。

そうですね(笑)。でも、あれもヒップホップなので、そういうものが話題になっているのはすごくいいことだなって。これがただの流行で終わらないように、俺もこういう立場だからこそできることを水面下でいろいろ考えてます。フリースタイルじゃない、ドラマを持った音源アーティストがもっと世に出ていけるようにとか。そうやってシーン自体をもっと底上げしていきたい…それこそアメリカじゃないですけど、ヒップホップのカルチャーがもっとお茶の間に出ていける日も近いんじゃないかなって、何となく思ってます。

ラップという部分では、20年以上前にも「DA.YO.NE」や「今夜はブギー・バック」が流行しましたけど、ポップス的な要素が強いので、ヒップホップのど真ん中にあるものではなかったですからね。でも、今はそれがどんどん真ん中に寄ってきている感じがあるというか。

確かに。自分の音楽も含めて、本当の意味での日本のストリートヒップホップだと言えるものが、もっとチャートに食い込んできてもいいのかなと思いますね。早くそういう時代になってほしいです。

そのためにもこのアルバムで切り込んでいっていただかないと!

そうですね。そう言っておいて、すべったらギャグですけど(笑)。
『DAWN』2016年11月23日発売Def Jam Recordings / Flying B Entertainment
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • UICV-9215 4104円
    • 【通常盤】
    • UICV-1077 3240円
AK-69 プロフィール

エーケーシックスティーナイン:唯一無二のラップと歌の二刀流の先駆者としてアーティスト活動をスタート。マスメディアに一切見向きもされない名古屋時代に全国のクラブで年間180本のライブをこなし、ライブを見たファンの評価のみでインディーズながらアルバム2作でゴールドディスク、オリコンDVDチャート1位を獲得。その後、渡米しニューヨークのNo.1 HIP HOPラジオ局と名高い“HOT97”に日本人として初のインタビューを受け、同局主催イベントへのライブにも出演。そして、アメリカの伝説的なHIP HOPレーベル「Def Jam Recordings」との契約を果たすまでに至った。己の生き様から生まれる“言霊”が男女問わず競争社会で戦っているトップアスリートや経営者にも共感を生み、高級自動車メーカー、高級時計ブランド、スポーツチームなどさまざまな企業のアンバサダーも務めている。AK-69 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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