【城 南海】今までにない自分の一面
が引き出された

今年の夏、ミュージカルに初挑戦した城 南海。オリジナルでは4枚目のアルバム『月下美人』はさまざまな経験を経たことによって圧倒的な歌声がさらに磨かれ、彼女が新たな段階へと進んだことが痛感できる作品となっている。
取材:桂泉晴名

ニューアルバムのリードトラック「晩秋」、さらに「月下美人」の2曲は、城さんが敬愛するシンガーソングライターの笹川美和さんの書き下ろし楽曲ですが、おふたりの出会いを教えてください。

笹川さんとの出会いは、私がデビュー前に笹川さんのライヴのオープニングアクトをやらせていただいたことがあるんです。それからずっと大好きで、最近のライヴでもセットリストにカバー曲を入れていました。もともと歌というものはAメロ、Bメロ、サビという展開が決まっているわけではないのですが、笹川さんの曲はそういった既成概念にとらわれない作り方をされていて。特に「晩秋」はずっとうねるようにグルグルしている曲で、今までにない私の一面を打ち出してくださったと思います。

今の城さんの年齢だからこそ歌える、雄大な曲だと感じます。

一歩踏み出すような感じで力強く、でも気負わず歌いました。「晩秋」のほうを先にレコーディングを行なっていて、笹川さんの世界観を少しずつ掴んでいき、「月下美人」は本当に自然に歌いました。そして、この2曲はアレンジを松浦晃久さん(JUJUや平井堅の楽曲アレンジ等を担当)にしていただいたんですが、今までにない曲のとらえ方やレコーディングの仕方を教えていただき、本当に解き放たれながら歌うことができました。

どんなアドバイスを受けたのでしょうか?

例えば、私が「祈りうた~トウトガナシ~」とかシマ唄を歌っている声と他の曲を歌っている声が全然違うと指摘されて。私も気付いてはいたんですが、そこをズバッと言われたんです。確かにこれまではシマ唄とポップスはグイン(奄美大島に伝わる歌唱法で、こぶしのようなもの)を入れることで混ざり合わせてはいましたが、感覚的にはスイッチが切り替わっていたので、松浦さんは“シマ唄で歌っている感じを、ポップスでも自然に出せたらいいね”と言ってくださって。歌い方がどうかではなく、考え方で両方を混ぜていけるように導いていただきました。

「月下美人」は城さんが演奏する三味線が入っていますが、その他にハープのような音色も入っていますね。

あれは25弦の琴の音なんです。琴奏者の方が弾いているところを見させてもらったんですけれど、縦に傾けてグーンと弾かれて、本当にハープみたいな響きなんです。私も初めて生で琴の音色は聴いたので、すごい楽器だなと思いました。

今回のアルバムには、城さん作詞作曲のしっとりとしたナンバー「七草の詩」も収録されていて。

これは2012年に品川教会で行なったライヴで披露した曲です。実はこのライヴ、アルバムリリースと同じ11月16日に開催されたんですよ。

いつか音源化したいと思われていたのでしょうか?

いえ。もともと11月16日のライヴにオリジナルを作って披露しようと考え、秋だし七草を取り入れて、私のおばあちゃんへの想いを込めた曲を歌おうと思って作っただけなんです。今回のアルバムに私の曲を入れたいと思った時、“そう言えば作っていたな”と思い出して。ただ、歌詞を書き留めていなかったので、その時のライヴの音源を聴きつつ、今書ける歌詞を混ぜて完成させました。おばあちゃんは私が歌手になるのを楽しみにしていてくれたんですれど、ちょうど10年前、歌手デビューが決まる前の2006年の秋に亡くなって…。だから、おばあちゃんに“見守っていてね”という想いで、月をイメージしながら書いた曲になってます。

今回のアルバムはミディアムバラードが多いですが、「愛唄」は城さんの本領を発揮した曲ですね。

聴いていただくと分かるんですけど、「愛唄」はオルゴールを開けて閉じるというひとつの物語になっていて。この曲は北九州に住んでいらっしゃるシンガーソングライターの冨永裕輔さんに書いていただきました。他にも何曲か書いてくださって、しかも一曲一曲にメッセージが書かれてあったんです。その中でも特にアルバムのテーマである“和”を感じ、自分の声にも合っているこの曲を選ばせていただきました。

城さんは今年の夏に初めてミュージカル(宮本亜門演出、尾上松也主演『狸御殿』)に出演されて、その経験がアルバム制作に多大な影響を与えたとのことですが。

はい。もともとミュージカルに出演したのも、テレビ東京『THEカラオケ★バトル』でお世話になっている宮本亜門さんが、私の声から“自然を感じる”とスカウトしてくださったんですね。今回のアルバムも自然にまつわるものがいっぱい入っているから、つながっていると思います。私が演じた白木蓮という役は、狸の森の神様であり、包み込むような愛をもってみんなを導くんです。でも、それを台詞で表現するのは難しくて。メロディーがなくて、ひと言で世界を作らないといけないですから。女優さんは言葉の力でどれだけ引き込むかということを常にやっていて、改めてすごいなと思いました。あと、一緒に共演させてもらったのが、歌舞伎の方をはじめ、お笑い、落語、オペラとものすごく幅広いジャンルの方たちで。まさに異種格闘技戦ですよね。そこで新しいことをひとつひとつ学んでいけたことが大きな経験でした。白木蓮という森の神様になったからか、今まで以上に新しいことに対して、ポンっと一歩踏み出せるようになったと思います。

ニューアルバムは大人っぽさが増した城さんのヴォーカルが聴きどころですが、昔のかわいらしさもちゃんと残されていますね。

ライヴで盛り上がるようなアップテンポな「夜の風」などは、グインを入れないでいつもよりかわいい声を意識して歌っているんです(笑)。このアルバムでは、一歩ずつ進んでいっている自分が表れているんじゃないかと思います。

昔の声と今の声、聴き比べてどんな変化を感じますか?

大きい変化は『THEカラオケ★バトル』を経験したこと。ビブラートや音程といった技術的な面はもちろん、点数があるところで、どうやって自分らしさを出すかを毎回悩んでいます。でも、これに挑戦していることで、自分の声はすごく変わったと感じます。

1年振りのアルバムは、どのような作品だと思いますか?

新しい自分の一歩が踏み出せたかなと思います。今回は日本人として大事な心とか、メロディーラインや和をテーマにして作ったので、ぜひじっくり聴いてほしいですね。
『月下美人』
    • 『月下美人』
    • PCCA-04443
    • 2016.11.16
    • 3000円
城 南海 プロフィール

キズキミナミ:平成元年 鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡“シマ唄”をルーツに持つシンガー。2006年に鹿児島市内でシマ唄のパフォーマンス中にその歌唱力を見出され、09年1月にシングル「アイツムギ」でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた「あさなゆうな」、「夢待列車」をはじめ、NHKドラマ『八日目の蝉』の主題歌「童神~私の宝物~」、NHKBSプレミアム時代劇『薄桜記』の主題歌「Silence」、一青窈作詞、武部聡志作曲・プロデュースのシングル「兆し」など。また、テレビ東京『THE カラオケ★バトル』に2014年7月に初出演以来、毎回高得点をたたき出し、現在、番組初となる10冠を達成。オンエアの回数が重なるにつれ、カバーアルバムを望む声が多く集まり、15年に初となるカバーアルバム『サクラナガシ』『ミナミカゼ』、17年11月には3枚目のカバーアルバム『ユキマチヅキ』をリリース。20年にはディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」の歌唱が決定し、日本版の訳詞も担当。ライヴでは毎年恒例のワンマン公演『ウタアシビ』の他、さまざまな音楽フェスティバル、イベントに出演している。城 南海 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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