取材:石田博嗣

THE BACK HORNらしさであって、新しさ
でもある

2008年はベスト盤に始まったのですが、ベスト盤を作ったことでバンドを見つめ直せました?

松田
善いも悪いも昔にしかなかったものや、“今、こういうふうに変わってきている”というものが、各々の中に芽生えていたと思いますね。
山田
今まで過去を振り返ることがなかったから、それがすごくいい経験でしたね。少しずつ変わってきてはいたけど、改めて見つめ直すことによって、自分がどんなふうに成長したきたのかが分かった。それが分かったから、次に向う時の気持ちが晴れ晴れしているっていう感じですね。

シングル曲が並ぶことで、映画用に作った曲も加わるわけですけど、他の曲と遜色ないのが印象的でした。

松田
それも思いましたね。映画っていう刺激があると、別のベクトルに行きがちじゃないですか。刺激を映画に求めていたと思うし、映画に刺激を与えたいという気持ちでやってたから、その距離感がベストなバランスだったのかなって思いますね。
菅波
一歩前進しないといけないというか、そういう時にいいタイミングで映画の話が来てたんで…このベスト盤もそういうポイントだと思うんですよ。新しいところに行くために振り返ることが必要だってことと、その時に何かしらのチャレンジが必要だってこと。その両方が前に進む時には必要だから、ベスト盤はそういうタイミングだったんだなって。初めてのベスト盤だったし。

2月20日に下北沢シェルターで“裸足の原点”と銘打ったライヴが行なわれたのですが、なぜこのライヴをやろうと?

松田
Zepp Tokyoから始まるツアーの前に…それは“裸足の軌跡”という名目の、まさに軌跡を辿るツアーだったから、その前に馴染みの深いライヴハウスでやりたいという気持ちがあったんです。

実際にやってみてどうでした?

松田
あんなにギュッと密集した空間なのに、昔は意識が遠くにあったというか、あの空間を味わえてなかったなって思いました。だから今回やった時は、音も視覚的な映像にしても、なんか秘密基地でやっているような感覚がありましたね。“こんな独特な雰囲気がある場所だったんだ”って。でも、意外に懐かしさはなかったんですよ。
山田
“見えてなかったものが見えた”というのはありましたね。正直言うと、“照明卓ってここにあったんだ”って思いました(笑)。それぐらい、昔は違うものを見ていたというか、自分の頭の中を見てライヴをやってましたね。自分の限界との戦い…ひとりで遊んでいたようなもんですね。
岡峰
小さい小屋だし、お客さんも少ないはずなのに、始まる前にめちゃくちゃ緊張してました(笑)。確かに秘密基地っていう感覚もあったし、お客さんもそわそわしたと思うけど、俺は妙に緊張してましたよ。
菅波
俺もみんなと一緒ですね。すげぇワクワクしたし、緊張もしたし、自分の世界が広がった感じもしたし…光舟が加入したことを初めて告知したのもシェルターだったんですよ。その時に、焼きそばの“一平ちゃん”を食ってたのを思い出したんですよね(笑)。一平ちゃんとグレープフルーツが体にいいって話を将司としてて…
山田
聞き間違いかもしれないんだけど、マラソン選手はカロリーの高いものを食べて、グレープフルーツジュースを飲んでいるって。で、半年ぐらい一平ちゃんとグレープフルーツジュースを続けてたから、ニキビだらけになってしまった(笑)。
菅波
そういうことを思い出しましたね(笑)。

その4日後からは“裸足の軌跡”と銘打ったワンマンツアーを敢行。ベスト盤を引っ提げてのツアーだったのですが、やはりこれまでのツアーと違いました?

松田
単純にツアータイトル自体がコンセプトじゃないですか。このツアーはTHE BACK HORN自体を分かってもらうためのツアーだと思ってたんですね。演奏する曲もベスト盤の曲が中心で…だから、観に来る人にも分かりやすかったと思いますね。“今回のライヴはどんなライヴになるんだろう?”っていう趣旨を求めなくていいというか。だからって、“10年目おめでとう! これからも頑張ってね”って応援ムードになっているわけでもなく、すごくフラットな状態で自分たちもお客さんもTHE BACK HORNの曲の世界観に浸って楽しんでいるようなツアーでしたね。もちろん、そこに10年という重みはありましたけど。だから、フラットな状態で盛り上がっているんだけど、軽い感じはしなかったです。重みのあるフラットな状態で楽しめたライヴ…これは太字ですね(笑)。
山田
すごくいい精神状態で臨めてた。“やっぱり音楽ってこういう精神状態でやんないと、自分から出てくるものが嘘になるな”って思うぐらい。ベスト盤のツアーだったから、その前に取材とかもいっぱいやって、いい気持ちで臨めたってのもあるだろうし…単純に、そんなにキツいスケジュールじゃなかったから、ひとつひとつを全力でやって、次のために準備して、また全力でやるっていう切り替えができたから気持ち良かったですね。ずっとテーマだったこと…その日ならではのライヴをやりたいと思ってるんですよ。少しずつだけど、そういうものができてたと思いますね。その感覚を得たような気がします。
岡峰
確かにね。曲順ってそんなに変えないんですよ。世界観がはっきりしている曲が多いから簡単には組み替えれないってのがあって。それでも1ヶ所、1ヶ所、しっかりできたって思いますね。ベスト盤のツアーだからこそ確認できたってのもあるんだろうけど、やっぱり1曲1曲が濃いなって(笑)。

そして、6月7日の武道館を前にして、シングル「覚醒」が発表されるわけですが、いつ作られた曲なのですか?

菅波
かたちになっていないものも入れると、去年ぐらいからずっと作ってて…今回のシングルを出すにあたって、楽曲はいっぱい作ったんですよ。この曲も原石としては去年ぐらいからありましたね。それが急激に…それこそ覚醒感を伴ってきたのは最後の方で、サビメロを付けて持って行ったんです。そしたら、みんなも他の曲とは違う感触を感じたようで…THE BACK HORNが持っている熱さというか、今までが赤い炎だったら、青い炎って感じで、研ぎ澄まされた熱さを感じたっていう話になったんですよ。それってTHE BACK HORNらしさであって、新しさでもあるから、この曲をシングルにしようってことになったんです。でも、燃えられるだけじゃなくて、感覚的に“目覚める”ところまで行ける熱い曲にしたいと思って、展開とかも…不思議な展開をするじゃないですか。それこそ目覚めるような。あそこができた時に、この曲は間違いないってと思いましたね。
松田
もともとは、武道館の前にシングルを出したいと思ってたんですよ。手ぶらで武道館ってのも何だしなって。でも、実際に曲を作っている時は、なかなか生まれてこなくて、もうスケジュール的に無理だなって時に栄純が曲を持ってきたんです。一番最初に聴いた時、ストイックさを感じたんですね。テンポも速いし、疾走感もあるんだけど、その裏には一本芯の通ったストイックな雰囲気が流れているのを感じて、それを栄純は“覚醒”っていう言葉で表そうとしたと思うんだけど…要は、メロディーが展開していく流れを聴いた時に、“これがそうなんだな”って思ったんですよ。で、歌詞ができて、“覚醒”っていうタイトルが付いたことで、自分の中でもつながった感じがありましたね。間奏後の展開にしても、パッと聴いた時に、もうセクションがはっきりとしてたんですよ。リフとAメロとBメロ、サビとの存在の仕方に、絶対になくてはいけない必然性みたいなものがあった。それだけでリフレインして終わるのも曲としてはアリなんだろうけど、そこに別次元の世界観がはさまった時に、よりそれぞれのセクションの立ち位置が見えてくると思ったんで、みんなと煮詰めている時に、あの展開を思い付いたんです。次元のねじれみたいなものを引き起こせたらいいなって(笑)。

そんなサウンドにどんな歌詞を乗せようと?

菅波
歌詞って最終的には聴いた人の中でメッセージになるんだけど、結局は歌が呼んでいる言葉というものがあって、自分が思ってることを演説すればいいかって言うと、そうではないんですよ。歌が呼んでいる言葉をどれだけ見つけられるかっていうことと…そういう作業に没頭していると、結果的に自分が心の底で思っていることが出てくる感じがしてて、むしろ歌詞が出来上がった時に“俺、そう思ってたんだよな”って思うんですよね。特に、この歌詞はそうでした。自分に対してなんだけど、“言ってもらえて良かったよ”って(笑)。

将司さんはどんなことを意識して歌いました?

山田
…説明が難しいですね。投げっ放しにしたくないっていうか、ちょっと心の中に包み込む感がありました。最初にイントロのギターリフを聴いた時に、すごい勢いで絡み合って行くイメージがあったんですよ。そしたら最後に“僕らは何度でも繋がってゆく”っていう歌詞があった。だから、歌う時もそのイメージがありましたね。

カップリングの「赤い靴」も同時期に作られたのですか?

山田
年明けぐらいですね。
松田
合宿で将司が弾き語りでイントロとAメロ、Bメロを作ってて、その時点からこのムードがバシバシと流れてて…緊迫感と同時に、西洋の昔話にあるような怖さと哀しさみたいなものと、それをあざ笑うような数パーセントぐらいの滑稽さが含まれている感じがしたんですよ。もう合宿の段階でDメロの“憐れみの賛美歌”の部分もみんなとセッションしながら作ってて、基本はだいたいできてましたね。物語っぽいムードをリフに感じてたんで、曲自体も物語のような展開がある方がいいと思ったんですよ。それがうまくいったというか…多くを語らずに、イマジネーションできるってのがすごくいいなって。最後のAメロに戻るところなんて、リズムの上でベースがグニュグニュと鳴っているだけなんだけど、そこに聴き手の想像をかき立てる何かが眠っている。
岡峰
直感でしたね。アレンジしている時に自然とこういうふうに転がっていったというか。THE BACK HORNってこういう複雑で、考え抜いてやってそうなことほど、ポッとできるんで、ひねくれた人が多いんだなって(笑)。
菅波
面白かったっすね。Dメロのコーラスがめちゃくちゃカッコいい。“ちょっとコーラス入れてみてよ”って言って、将司が入れたメロディーが、自分がギターで入れようと思っていたものと一緒だったんですよ。みんな考えていたことが同じだったから、あの変な展開が5分ぐらいでできる。そのシンクロしている感じってのは、バンドならではのものですよね。

歌詞は曲が物語っぽいムードを持っているから、そういう内容のものが乗ったのですか?

松田
曲自体が物語性を持っていて、分かりやすいぐらいに場面ごとに語っているムードがあったし、将司の乗せていた仮歌詞に“赤い靴”という言葉があったんですね。将司が歌ったものをパッと聴いた時に、その言葉に必然性がすごくあったから、それを大事にしたいと思ってたんですよ。で、あと常々自分が思っていたこと…どこにも行き場のない想いを代弁したいなってのがあったんです。“政治家は金儲けのことしか考えてない”っていうことを言うんじゃなくて、物語を通して哀しみの果てや絶望の底というものを恥ずかしがらずに言えないかなって思ってたんで、それと西洋のムードというものが合体して、こういう歌詞になりました。

なるほど。赤い靴を履いた女の人が理不尽な事故に巻き込まれて、それを嘆いているんだと思ってました。最近、無差別殺人が多いんで。

松田
そういうふうに感じてもらえればうれしいですね。そうやって解釈してくれて、“自分がそういうふうになったらどうなるんだろう?”って想像してもらえるだけでもうれしいです。

お話をうかがっていると、今回のシングルも武道館用のアイテムと言うより、やはり現在のTHE BACK HORNの作品になってますね。

松田
そうですね。意気込みとしては、武道館の時に“こういうのを見つけてきたぜ”って今後を示すものが欲しかったんですけど、見つからなかったらそこまでだったと。まだ自分の中で“これだ!”というのは分かってないんですけど、新しい扉というか…今年は10周年というムードはあるんだけど、それはベスト盤を作り終えたところで、自分の中ではおさまりがついたかなって。だから、“次は新しい世界に足を踏み入れないといけないな”って気持ちがあったんですよ。その感覚が、このシングルには宿っていると思いますね。

6月7日は武道館。“裸足の夜明け”と銘打っているのは、リスタートみたいな意識があるということですか?

菅波
ここから始まるっていう感じはありますね。このタイミングで武道館なんだなってのもあるし。だから、すごい楽しみですね。今までの集大成のセットリストでやった『裸足の軌跡』のツアーの時、昔の曲を今の自分たちが演る意味っていうか、今の自分たちが演奏することでパワーアップしたってのを観せないといけないって思ったんですね。武道館ももちろん集大成であり、最新型のTHE BACK HORNだと思うから、スケール感も熱量も全部がパワーアップしたってのを観せたいですね。
松田
ツアーの時に全国のいろんな場所で味わってきたものを、武道館という1日で作り上げれたらいいなっていう感じですね。9ヶ所を回って、さまざまな経験をして、その空間で味わったものを、武道館という1日のライヴ…2時間の中で観せることができたらなって思います。
THE BACK HORN プロフィール

ザ・バックホーン:1998年結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けている。01年にシングル「サニー」をメジャーリリース。17年には宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」が話題に。結成20周年となる18年、3月にメジャーでは初となるミニアルバム『情景泥棒』を、10月にはインディーズ時代の楽曲を再録した新作アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』を発表。また、ベストセラー作家・住野よるとのコラボレーション企画も注目を集め、2021年末にはフィジカルとして約4年5カ月振りとなる待望のシングル「希望を鳴らせ」をリリース!THE BACK HORN オフィシャルHP

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