シェリル・リンの極めつけディスコヒ
ット5曲

ディスコ全盛期の70年代終わりから80年代初頭にかけて、日本のディスコで絶大な人気を誇ったシェリル・リン。

タレント・オーディションで魅せた驚異
の歌唱力

幼い頃から教会でゴスペルを歌い、地元では“歌の上手いリンダ(本名)”として知られ、その後76年にアメリカで高視聴率を誇ったテレビ番組『ゴングショー』で優勝、20歳前でいきなり人生の分岐点に立たされ、悩みながらも彼女は歌手になる道を選んだ。そして、大手レコード会社コロンビアと契約し、ディスコ全盛の78年にアルバム『Cheryl Lynn』でデビューする。このアルバムは、名声を得る直前のトトのメンバーをはじめ、ハービー・メイソン、デビッド・T・ウォーカー、チャック・レイニー、バーナード・パーディーほか、驚くほど豪華なメンバーが参加している。今ではディスコクラシックとなっている「Got To Be Real」(全米ソウルチャートで1位!)や、明らかにディスコヒットを狙った「Star Love」が収録され大ヒットとなった。
続く2nd『In Love』(‘79)は1枚目と同傾向の作風で、AOR系シンガーソングライターのボビー・コールドウェルが書いたシングル「I've Got Faith In You」と「Keep It Hot」がディスコでヒットした。3rd作『In The Night』(’81)では、ゴーストバスターズでお馴染のレイ・パーカー・ジュニアにプロデュースを依頼し、これまでにない新しいディスコサウンドで彼女の80年代はスタートする。この作品からは「Shake It Up Tonight」(ディスコチャートで5位)がヒットし、ベースにジャズ/フュージョン系のマーカス・ミラーが参加したことでも評判になった。

ソウルファンの僕としては、4作目となる『Instant Love』(‘82)が彼女の最高傑作だと思っている。このアルバムからは、大きなディスコヒットが生まれていないことからも、彼女がディスコからソウルシンガーへと方向転換しようとしたのは確かだろう。この時期はユーロビートが台頭しつつあった頃で、ディスコ音楽がテクノっぽいサウンドに変わりつつあったことも、彼女に転換を意識させたのではないかと推測する。続く5th『Preppie』(’83)では黒人音楽の一時代を築いたジミー・ジャム&テリー・ルイスにプロデュースを任せ、80年代ソウルの新しいスタイルを披露、アルバムはR&Bチャートで7位になるなど大ヒットするのだが、ディスコでの人気回復には至らず、6thの『It’s Gonna Be Right』(‘85)を最後にコロンビアを離れ、90年代以降はブラコン作品のバックヴォーカルを担当するぐらいで、だんだんと忘れられるようになってしまった。
それでも日本では、ディスコ時代のシェリル・リンは大人気。今でも毎年のように来日し、往年のディスコファンを楽しませてくれている。

さて、それでは、シェリル・リンの極めつけディスコヒットを5曲セレクトしてみよう。

1.「Got To Be Real」(‘78)

シェリル・リンといえば、やっぱりこの曲が一番の人気だろう。当時ディスコでこの曲がかからない日はなかったぐらいヒットした。スティーヴィー・ワンダーっぽいイントロから、エモーションズの「ベスト・オブ・マイ・ラブ」(‘77)的な展開を見せるわけだが、高音まで気持ち良く伸びる彼女のヴォーカルが素晴らしい。この曲のように、人力演奏のうねりというかグルーブ感にはなんとも言えない魅力があり、黒船としてユーロビートが世界を席巻するまでは、ディスコ音楽も演奏とヴォーカルががっぷり四つに組んでいた時代だったなぁと、しみじみ思う。

2.「Star Love」(‘78)

焦らすためだろうが、この曲はイントロのバラード部分がかなり長く、当時ディスコではアップテンポに変わった途端狂ったように踊り出す人が多かった。このへんは完全にプロデューサーの狙い通りで、それを分かった上で踊り狂うというのがお約束だったような気がする。でも、この曲ってよく聴くと彼女のヴォーカルがすごいんだよね。ちょっと音がハズレ気味の部分もあるんだけど、低音から高音まで乗りに乗ってる感じで、たぶん正確さよりノリの良さを重視したんだと思う。彼女の代表曲のひとつだ。

3.「Keep It Hot」(‘79)

これもディスコらしい雰囲気が満載のナンバーだ。ヴォーカルにはリバーブをかなり強めに効かせ、バックのサウンドに溶け込むようなサウンドプロデュースとなっている。このへんがデビッド・ペイチの腕の見せどころで、途中のフルートとヴォーカルの絡み部分は、ドラムが太鼓みたいな効果を出していて、盆踊りっぽいところがあるのは面白い。“踊り”のリズムって全世界共通なんだと思わせるような説得力がある。

4.「Feel It」(‘79)

この曲はBPMが速いだけに、踊るのはかなり疲れたと思う。ていうか、これだけ速いと今のクラブでは受けないと思う…。メロディーがマイケル・ジャクソンの「Beat It」(‘83)とそっくりだけど、もちろんリリースはシェリル・リンのほうが前なので、文句言うならマイケルに言ってください。強力なスラップベースはチャック・レイニーじゃなくて、デヴィッド・シールズ。スラップベースはラリー・グレアムがスライ&ザ・ファミリー・ストーンのメンバーだった頃に編み出した、弦を叩きながら弾く技で、当時はチョッパーって呼ばれていた。こういう曲でのノリの良いシャウトは彼女が得意とするスタイルで、圧倒的な存在感があった。

5.「Shake It Up Tonight」(’81)

3rdアルバム『In The NIght』所収のナンバー。これはダンスの形態で言うと“ハッスル”になると思う。デビッド・T・ウォーカーとワー・ワー・ワトソンのリズムギターが絶妙で、ダンスするのにぴったりのグルーブ感を醸し出している。シックのナイル・ロジャーズは、きっとこういう演奏を勉強してダンスに向くリズムギターを編み出したんだろうなって、関係ないことを考えてしまった。ベースは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのマーカス・ミラーが弾いている。フィリー風のストリングスもカッコ良い。ダンスチャート、R&Bチャートの両方とも5位まで上昇した。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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