2016年のキャッチコピーとして“ロックは生きている。”を掲げるGLIM SPANKY。この対談企画では、そんな彼らがゲストとそれぞれのロック観であり、ロックに対する想い、表現者としての信念について語り合う。記念すべき第一回目の対談相手は、ギャグアニメ『秘密結社 鷹の爪』の監督であり、ロック好きでも知られるFROGMAN氏。もちろん、アツく濃いトークが繰り広げられた!

このままだとロックの土壌がどんどん狭
まっていく

ーーこの対談企画のタイトルの“ロックは生きている。”は、GLIM SPANKYの2016年のキャッチコピーでもあるわけですが、そこにはどんな想いが込められているのですか?

松尾:
“ロックとは何を表現するものか?”と言うと、大前提として愛があって、希望があって、平和があって、それらが社会において想い通りにならないことへの悔しさや悲しみ、反抗を歌うことだと思うんですよ。それはブルースも然り。それってどんな時代にもある人間の感情なのに、いろんなところで“ロックは死んだ”って言われたりする。でも、私はずっと生き続けていると思っているんです。それを今の時代に対して、若者である私たちが殴り込みかけるような気持ちでロックをやり続けているので、それを提示したいっていう想いですね。ロックは死んでいないし、生き続けているんだって。

ーーキッスのジーン・シモンズが“ロックが死んだ”と発言したことに対して、スリップノットのコリィが反論していましたが、そういう気持ち?

松尾:
そうですね。ロックって時代を越えていくものだと思うんですよ。それを言いたいんです。時代時代にロックはあると思うし、事は違えども同じ悔しさだったり、同じ感情を持っていると思うんですよ。私は持っているし、常に怒ってるし。それを今の大人にも子供にも提示したいんです。

ーーなるほど。亀本くんは?

亀本:
僕、音楽を聴くようになって、バンドを始めるようになると、洋楽ばかり聴いてて、まったく邦楽に興味がなくなったんですね。ヒットチャートとかも全然聴かなくなったし。で、音楽の雑誌とか読むとロックギタリストってことでジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンとかが載っていて、それが音楽のメインストリームだと思ってたんです。そういうものが好きになって、そういう人たちの音楽を聴いて、そういうものに影響を受けた音楽を作ってたから、自分たちはすごくメインストリームのことをやっていると思ってたんですけど、世間に出て行った時にすごくアウトローに扱われて…。インディーズの時なんて、いわゆる業界の大人の人たちに“すごくカッコ良いことをやってるけど、そういう感じは今時はね…”みたいな言われ方もしたし。やっぱり“ちくしょう”って思うじゃないですか。ロックって商業的にも売れるものだし、人々の生活に絶対に必要なものだっていう…まぁ、理想でもあるんでしょうけど、それを証明したくて、僕はロックをやっているところがあるので、“ロックは生きている。”を掲げたという感じですね。
ーー決してマイノリティーではないと。

亀本:大衆的なものだよって。で、その源流を辿っていけば、60年代のロックやブルースがあるんだよっていうことを証明したいんです。
松尾:
うんうん。ロックのルーツにはブルースやゴスペルがあるんだよって。で、そんなブルースやゴスペルが今も歌い継がれているのには意味があるというか。人々がそういうものに魂が共鳴しているから残っている歌があって、カルチャーがあると思っているんですよ。だから、私たちも王道のど真ん中で発言していたいし、挑戦していたい…それは一種の芸術活動っていうか、音楽って音だけじゃダメだから、カルチャーやアートやファッションも全て含めてのロックであり、そういうものでGLIM SPANKYを作り上げたいと思ってるんです。

亀本:
僕はそれでもちゃんと商業として成功できるんだよっていうことを証明したい。だって、THE YELLOW MONKEYが復活しただけで、あんなにみんな大喜びしているわけだし(笑)。みんなロックが好きなはずなんですよ。

ーー…と若いふたりが頼もしいことを言っているわけですが、FROGMANさんのご意見は?

FROGMAN:
うちの息子は11歳なんですけど、音楽が好きで洋楽を聴いてるんですね。それは僕が好きな音楽を車とかで一緒に聴いているから、その影響なんですけど。僕自身もロックが生まれた50年代に生きていたわけじゃないけど、70年代後半から80年代前半ぐらいにロックに触れて、それから30年以上の付き合いになるから、一応ロックを分かっているつもりだし、GLIM SPANKYのように若い子もどんどん出てきているわけで…これ、僕、いつも考えてることなんですけど、うちの息子もそうだし、GLIM SPANKYのおふたりもそうだし、今の若い人たちというのは、その年齢でロックに触れて、感化されて、そこから自分なりのロックというものを求めていくわけだから、誰にとっても触れた時がロックのスタートなんですよ。決して1950年代が始まりじゃないんです。その世代世代に生まれた人たちが触れた時が始まりであって、そこで彼らなりのロックの解釈があって、そこからどんどん洗練されていく。壮大な話になるんですけど、お釈迦様が3000年前に“人間とはこういうものだ!”って悟るわけじゃないですか。
でも、3000年経っても人間は未だにみんな苦しんでるという。なぜそうなるのかって言ったら、例えば70歳でそういうことを悟っても数年ほどで人は死んじゃう。で、次に生まれた人ってゼロから始まる。でも、死んでいくからこそ、受け継いだ世代が新しい発想でもってどんどん進化させていく良さもあるわけで。…また話は逸れるんですけど、人工知能が300年分くらいの知識を蓄積していて、そのうち300歳が作ったロックや演劇とかが出てくるだろうから、そういうアートとかエンタテインメントの世界って、今まで我々が体験したことのないような世界に入っていくんじゃないかなって。そんな人工知能が2020年くらいから爆発的に世界に広がっていくと言われている時に、こうやって若い人たちがロックを作って、パッションを持って洗練させていくというのは、もしかしたら後の時代から振り返った時に、GLIM SPANKYの存在というのが“人工知能以前の最後のロッカー”というふうに言われるのかなって(笑)。そういうものに対するアンチテーゼとしてGLIM SPANKYが語られるというか。“ロックは生きている。”という言葉が、今のこのタイミングで提示されるというのは、その後のエンターテインメントに対して、すごく象徴的な言葉になるんじゃないかなって思いますね。でも、そういう時代が絶対にくるんですよ。シナリオを人工知能が書くっていうことは、すでに実験的に行なわれているんで。

松尾:
え! そんなことできるの!?

FROGMAN:
できるんですよ。今、“こういう物語だと人間は感動する”というデータをどんどん収集していて…すでに音楽でも人工知能がクラシックを作曲したりしているからね。

ーーでも、ロックは演者の生き様が落とし込まれたものだし、人工知能が作ったロックはデータの寄せ集めでしかないから、また別ものになるでしょうね。

FROGMAN:
そうですよね。ロックってやっぱり魂なんで、絶対に人工知能なんかで作れないはずなんですけどね。

ーーだから、生身の歌とは別ものとしてボカロが認知されているように、コンピューターによって作られたロックとして存在していくのかもしれない。

亀本:
ボーカロイドもブームになったけど、人間の生身の歌には取って代われないですからね。だから、人間の温かみって大事なんですよ。打ち込みもいいけど、人が演奏したものとはやっぱり違うし。打ち込みで音楽を作ると予算的に安上がりだけど(笑)、人が演奏して作る音楽はなくならないよね。絶対に求める人はいるし。

松尾:
デジタル化が進むと人間が演奏するものが貴重になっていくから、逆に求められるようになるかもしれない。

FROGMAN:
だからこそライヴになっていくだろうね。ライヴのできない我々映像屋はどうすればいいんだろう(笑)。
亀本:
(笑)。確かに、コンピュータで再現できないものの価値が高まっている気がするので、きれいに整っていなくてもいいというか、荒削りでデコボコしていてもカッコ良ければ成立するんですよね。

松尾:
あと、ロックバンドでもレコーディングとかで最終的にきれいに整理された音が流行り出して、それをダイレクトに聴いてきたのが私たちの世代なんですよ。そういう音にみんな慣れているんですよね、音圧が一定で、シャカシャカした音に。だから、今のバンド好きの子たちって、荒削りでデコボコしたサウンドの良さが分かっていない気がするんです。一定のリズムにしかのれないから、どうやってのればいいか分からないとか。それって知らないから仕方ないと思うんです。だから、私たちがフェスとかにどんどん出て行って、50年代から受け継がれているロックののり方を教えていかないといけない…勝手にそういう使命感を持ってるんですよ。このままだと将来的にロックの土壌がどんどん狭まっていくと思うんです。

FROGMAN:
あ〜、それは絶対にある。

松尾:
そうなんです。去年、フェスとかに出させてもらって、日本のロックの危機を感じたんです。それを私たちが何とかしたいと思って、こうやって“ロックは生きている。”と大口を叩いてるわけですよ(笑)。それくらいストレートに言ったほうがいいなって。でも、そこにはちゃんとした理由があるし、ビジョンもある上で言ってるんで、それをどんどん実現していって、私たちとともに時代を変えるぞ!と思ってくれるロックバンドが増えて、カルチャーを変えていけたら楽しいなって思っています。

GLIM SPANKYには子供たちの“歌のお姉
さん、お兄さん”になってほしい

FROGMAN:
ところで、今、音楽ってどうなんですか? 絶対数で音楽を聴いている人って減ってるのかな? 映画や映像の世界で言うと、映画を観る絶対数が減っているんですよ。映画を観ないくてもいいって人が増えてるんだけど、音楽も聴かなくていいって人が増えているのかな?

松尾:
増えてますね。お正月に実家に帰った時に同級会に行ったんですけど、みんなに「どんな音楽を聴いてるの?」って訊いたら、ほとんどの人が「分からない」って言うんですよ。音楽は聴いているんだけど、テレビとかで流れているものを聴いているだけで、自らヘッドフォンをして聴くっていう感じじゃないんです。私たちが中高生の時はTSUTAYAに行ってランキングをチェックしていたけど、そういうのはないんですよ。

FROGMAN:
うんうん。僕らも若い頃はレコード屋さんに毎週行ってたもん。

松尾:
だから、その頃から比べるとすごい変化が起こってるんですよ。音楽がなくても、映画がなくても、ネットとか楽しいことがいっぱいある!って。

FROGMAN:
我々、エンターテインメントを提供する側って、偉そうな言い方をするけど、お客さんを育てるってことちゃんとしないといけないよね。例えば、若者にどうやって映画を観るように仕向けるのかって。どの俳優さんの演技が上手いとか、どの監督さんの演出が上手いって見極められるだけの目を持っているお客さんって少ないんですよ。だから、何がいいのかっていう絶対美の美術教育を日本でやらないといけない。うちの会社でもプロデューサーに「本を読め!」って言ってますからね。それは上がってきたシナリオを読んで、それが面白いか面白くないかっていう判断…自分が書けなくてもいいから、いち読み手として良いか悪いかを判断できる審美眼を持てって言ってるんです。そういう絶対値を持っている人って少ないのかなって。

松尾:
そうですね。そこと通じることなんですけど、私たちが教えるって言うと偉そう…いや、ここは偉そうに言っておこう!(笑) 私たちはそういう若者たちの前に出て演奏するってことが重要だと思ってるんです。テレビとか雑誌とかのメディアに出るってことをどんどんやっていきたいんですよ。私たちが中高生の時に活躍していたロックバンドって“ロックバンドはテレビに出ない!”っていうことを貫き通していたんですけど、私たちは“自分たちがカッコ良い音楽をやっていると思うんだったら、どんどんメディアに出るべきだ!”と思ってるんですね。どんなメディアに出ても自分たちは曲がらないっていう自信もあるし。
FROGMAN:
いいねー。GLIM SPANKYって今、『トランスフォーマー フェス』のテーマソングをやってるでしょ? ああやって子供たちにアピールすることって大事かもしれないね。20年後の日本の若者の耳を肥やすためにも、今から小学生相手にいい音楽を流し込んでいく作業って。僕もうちの子供にはなるべくいい曲を聴かせようと思ってて…だから、息子はキャロル・キングが大好きで、『Tapestry』とか聴いてますよ(笑)。
松尾:
それはすごい!(笑) 子供の頃に聴いていたものって絶対に後に影響が出てきますからね。私も親の影響が大きいです。

FROGMAN:
僕の場合は兄貴ですね。僕、7人兄弟の7番目なんですよ(笑)。僕が幼稚園の頃に、兄貴たちはロックにはまっていて、ビートルズやセックス・ピストルズを聴いていたし…だから、僕、ピストルズはリアルタイムで聴いてるんですよ。そういう影響を受けて、ずっと洋楽を聴いてましたからね。それがあったから、今、こんなことをやってるのかなって(笑)。

松尾:
そういう英才教育を社会的にやらないといけないなって思いますよね。

FROGMAN:
うんうん。GLIM SPANKYは日本の子供たちの“歌のお姉さん、お兄さん”になって教育していってほしい(笑)。昔、美輪明宏さんが同じをことを言ってたんですよ。今の日本がやらないといけないのは美術教育だって。美しいものを美しいと素直に言える、汚いものを汚いって素直に言える感性ってすごく大事で、それって生き様にもなってくるって。美しい生き方をしようと思えば、陰に隠れて人の悪口を言ったり、誰も見てないからって悪さしたりしないって。日本が一番ダメなのは、美術教育をちゃんとやらなかったからで、だからこんな世の中になっちゃったんだって美輪さんがおっしゃっていて、まさしくその通りだなって思ったんですよ。ロックも生き様ですからね。

松尾:
そうですよね。これ、私、日本中の人に言いたいことなんですけど、例えばファッション。すごくカッコ良い服を着ている人がいて、“あ、この人、絶対カルチャーに興味を持ってるんだろうな”って思って話しかけたら、何も知らなかったっていう。ブランドの服をただ買って着ているだけなんですよ。それもそれでいいんですけど、ちょっと悲しいなって。私は“きっとああいう映画を観て、ああいう音楽に影響を受けて、こういうファッションをしてるんだろうな”って勝手に想像していたんです。どうしてそのファッションが好きなのかって絶対に理由があると思うんですよ。影響を受けたカルチャー、影響を受けたロック、大好きなモデルなどなど、そういうものがあってそれを選んでいるわけだし。
亀本:
今はインターネットとかがあって情報過多だからね。何も考えずに、選ぶだけでいい。ズボンズのドン・マツオさんと話していた時に、「昔はイケてる奴になるためにイケてるロックを聴かなきゃって思ってた。でも、今の若いヤツは見た目はイケてるのに、ろくなものを聴いていない」って言ってて、まさにそういうことだなって。今って情報が多いし、何でも簡単に手にできるし、自分から探して観たり聴いたりしなくてもいいから、その過程がなくなるよね。ドンさんも「昔はイケてる感性を持ちたくて、カッコ良いロックを必死で探していたけど、今ってそういう奴いない」って言ってた。
松尾:
だから、薄っぺらくなってしまう。昔、先輩でシド・ビシャスが好きな人がいて、シド・ビシャスと同じベースを持って、同じファッションをして、同じ髪型にしていたんですね。なので、「先輩、パンク好きなんですね。ピストルズはどの曲が好きなんですか?」って訊いたら、「聴いたことない」って(笑)。

FROGMAN:
なぬーー!

松尾:
だから、なんでシド・ビシャスが好きなのかって訊いたら、漫画『NANA』の映画を観て、その登場人物のひとりがシド・ビシャスに憧れて、カッコ良いファッションをしていたからだって。だから、ピストルズを知らなかった(笑)。

亀本:
いや、それはそれでパンクだよ(笑)。

FROGMAN:
パンクだよね(笑)。ぜひうちのアニメのキャラで使わせてほしい。“シド・ビシャスを知らないけど、シド・ビシャスの格好をしている”って(笑)。

松尾:
携帯の待ち受けもシド・ビシャスでしたからね。ま、これは振り切れまくりの話なんですけど、そういうことなんですよね。中味がない。

FROGMAN:
ちょっと話が変わるんだけど、この間、『天才バカボン』を映画化したんですよ。『天才バカボン』って40年前のものだけど、今回映画化するにあたってコミックを全部読み返していたんです。『秘密結社 鷹の爪』ってアニメ業界ではかなり斬新な演出をしていて、それが面白いって言われているんですけど、すでに40年前に赤塚不二夫さんが同じようなことをやってたという。60年代に赤塚さんが漫画の枠をぶっ壊すようなことをしていて…裏方のぶっちゃけ話をするとかね。それを誰かが面白がって真似して、それをまた誰かが真似してっていうことを40年繰り返して、今、FROGMANがやってる。さもオリジナリティーあることだと思ってやってたら、何てことない劣化コピーをまた真似ていただけだっていう。過去の作品を知ることで、そういうことが分かるんですよね。だから、僕はシド・ビシャスの彼のことを笑えないんだけど(苦笑)。昔の赤塚不二夫さんの作品を知ってる人からすれば“それは赤塚不二夫の真似じゃないか”って笑ってるかもしれない。僕はオリジナルを知らなかったわけだし。でも、そこは現代の解釈でやっているわけだから、赤塚不二夫さんとは違うギャグの転がし方にはなっているんだけどね。

亀本:
そうなんですよ。ロックにしても誕生して50年ほどですけど、途轍もない人数が途轍もない数の曲を書いているから、ぶっちゃけ新しい何かの発明ってほぼ有り得ないと思うんです。それでも何か新しいことを打ち出していくことが僕らの仕事というか…だから、昔のものも知ってないといけないから聴くんですけど、一般の人はそこまでするのは難しいでしょうね。この間、ROLLYさんのギター教則本を見たんんですけど、“こういう練習をしなさい”っていうのは一切載ってなくて、心構えだけが載ってるんですよ。そういうことなんだろうなって。あと、これもドンさんが言ってたんだけど「今の女性ヴォーカリストの多くは椎名林檎さんやaikoさんから影響を受けている。50年後だったらいいけど、今、林檎さんの真似をしたらダメだ。だから、50年前にローリング・ストーンズがやっていたことを、今誰もやってなかったら、それはやってもいいんだよ」って。僕らもそういう気持ちでいるんですよ。“今、何をやれば斬新なのか?”っていうことをすごく考えている。そういう意味でも、いろいろ知らないといけないって思うんです。一般の人がそれをどこまでやるかってなると…アンテナを張っている人はいろいろ聴いたりするだろうけど、僕らくらいの歳の子はロックを聴くよりも『モンスターハンター』をやってるほうが楽しいだろうな(笑)。

松尾:
だからこそ、私たちがメディアに出て、どんどんそういうものを紹介していくってことに意味があるんですよ。

どんどん大きくなって道を切り開いてい
くことが目標

FROGMAN:
そういうことをメジャーのステージで言えるってのは珍しいですよね。やっぱりロックっていうのは反逆や反体制のものだから、それこそメジャーシーンには乗らないって言ってたり。「どんどんメディアに出て、言いたいことを言ってやるんだ」って言ってるロッカーってあんまりいないんじゃないかな。

松尾:
逆に「俺たちはロックだからメジャーには行かない」って言ってる奴がロックじゃないと思いますね。横山健さんが『ミュージックステーション』に出た時に、「俺らは今までテレビに出ないことを美学としてきたけど、伝えたいことがあるから出たんだ」ってコラムか何かで書かれていたんですけど、「やっと気付いてくれたんだ! これなら仲間になれるかもしれない」と思ったんですよ。

FROGMAN:
すごい上から目線だな(笑)。

松尾:
横山健さんはハイ・スタンダードでメロコアのシーンを築いた人で、すごく力のある人だから、そういう人がブログで言ったってことは、時代が少し動くきっかけになったと思うんですよ。それに賛同するバンドマンや若者もいると思うし、ずっと私たちはそう思ってやってきたたから、すごく嬉しかったというか…「横山さんも私たちに付いてきて!」って思ったんですよ(笑)。

FROGMAN:
そうなんだよね。自分たちの反骨精神や反逆行動を実行に移そうと思った時って、それだけのパワーを身に付けたほうが物事をひっくり返しやすい。レコード会社がどうこう言ってきて圧力を感じるんだったら、自分たちがレコード会社よりも大きくなっちゃえばいいわけだし、それこそレコード会社を買っちゃうくらいのパワーを持てばいい。うちの会社も最初はフラッシュアニメをやってて、クソアニメってさんざん言われてきたけど、なんだかんだ言って10年続いて、上場なんかしちゃったら、今までクソアニメって言ってた連中がみんな掌を返してきて、すごく痛快なんだよね。だから、クソアニメだって言われて卑屈になって小ぢんまりとやるんじゃなくて、どんどん大きいところを目指していけばいいんだって思ったし、僕はもっとメジャーになって、お金を稼いで、みんながビビるくらいのすごい会社にしたいと思ってるんですよ。

松尾:
最高ですね!
FROGMAN:
そこでエンターテインメントを変えたいっていうのが夢としてあるんです。だから、お客さんの耳を良くしたいからって地道にライヴハウスで演るんじゃなくて、音楽シーン全体を変えるつもりでやるほうが正しいんだろうなって。そういう意味でも、偉そうであってもビッグマウスって大事だと思う。
松尾:
「褒めろよ」って曲の中で“世界が掌返すの見たいから、でかい野望を持って、褒めて褒めて自分が上に行ってやれ!”って歌ってるんですけど、ほんとにその通りで、ミュージシャンって実は怖いんですよ。クリエイターって根拠のない自信と不安、その両極端のものを持っていると思うし。でも、CDが売れないとか、メジャーに行くと大人たちの言いなりにされるとか、そういうのって逃げの口実だと思うんです。だからこそ私はメジャーでやるっていうことを大事に思っているし、自分に信念があるなら大人に何を言われても曲がらないと思うんですよ。闘えるっていうか。どんどん大きくなって、道を切り開いていくことが私の目標なんです。それを若者に言いたいし、同世代のバンドマンにも言いたいし、沸々とカルチャーを変えたいと思ってる人にも言いたい。私は今、そう思って生きています。

FROGMAN:
だからこそ最新作のタイトルが“ワイルド・サイドを行け”なんだね。これも素晴らしくて、息子に「“ワイルド・サイド”ってどういう意味?」って訊かれたから、「ルー・リードって偉いミュージシャンがいて〜」と話したら、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに興味を持って、そしたらもともと息子はアンディ・ウォーホルが好きだったから、そこでつながったりしてね。

松尾:
それ、最高ですね! 教育だ! そうやってつながったら本望ですね。私、CMでジャニス・ジョプリンの「Move Over」を歌ったんですけど、いくらジャニスが有名なアーティストだったとしても、私たちの世代になると知らないんですよ。だから、もう1度、ここで私がジャニスの「Move Over」を歌うことで、「これ、カバーなの?」って若者たちがジャニスに興味を持つ、それだけのことでロックを知る若者が少しでも増えるわけで、それが私たちにできる教育だし、土壌を広めるきっかけになると思うんです。

ーー今の時代に、あの音を鳴らすこと、あの曲を聴かせることに意味はあるでしょうね。

松尾:
そうですよね。そこでGLIM SPANKYの新曲だと思われてもいいし、ジャニスのファンが「こんなのジャニスじゃねぇ!」って言ってくれるのも大事だし。

FROGMAN:
うんうん。僕、あのCMを観た時、「これ、誰が歌ってるんだ!?」って調べましたからね。その時はまだGLIM SPANKYを知らなかったので。その後、まさかうちの番組のエンディングを歌ってもらうようになるとは(笑)。

ーーアニメ『秘密結社 鷹の爪 DO』のエンディングに「WONDER ALONE」が起用されたのですが、GLIM SPANKYのどんなところに惹かれたのですか?

FROGMAN:
難しいな…まず、謎すぎたんですよ。「え、これ、新人バンドなの!?」って(笑)。EDMやアイドルが全盛の時代、こんなゴリゴリのロックでデビューするのってどんな奴なんだってところから興味を持って…いや、ほんと大好きなんですよ。僕もロック好きなんで。で、アルバムを聴いたら、どれも好きな曲だったんで、やるんだったら自分の好きなアーティストとやりたいから、ぜひ!ってことでGLIM SPANKYにお願いしたんです。正直言って、『鷹の爪』っぽくはないけど、僕が好きだからいいやって(笑)。でも、いつもは辛口のネットユーザーがすごく褒めていたんで良かったです。

松尾:
あのエンディングをやらせてもらって、すごく反響があって…知り合いの子供たちとかも観てくれてたし、子供と一緒に観ていた親がGLIM SPANKYを好きになってくれたり。ライヴの年齢層もちょっと変わったんですよ! 3歳とか5歳の子が、家族と一緒に来てくれるんです。東京だけじゃなくて、全国で。

亀本:
最前列とかに小さい子供がちょこんといるんですよ。

FROGMAN:
すごいね! だってGLIM SPANKY、小さい子供が来る要素ないもんね(笑)。でも、うちの6歳の娘も「大人になったら」を歌ってますよ。“大人になったら”って言うのはまだ早いよ!って(笑)。

松尾:
いいコラボしたと思いますね。目に見えて変わったことが分かったことだし。

FROGMAN:
もともと年配の人は多いよね。

松尾:
多いですね。

ーーそれはロックを知り尽くしている人が反応しているっていうことですよね。

松尾:
そうですよね。すごく嬉しいことだし…これは勝手な偏見なんですけど、ロック親父ってもう自分の好きな音楽が確立しているから、どんなものが流行っていようが、自分の好きなもの以外は排除するんですよ。それに対して若者は、まだそういう確立したものがないから、「これが流行ってるよ」ってなるとそれに飛びつく。ロック親父…ほんとの音楽好きがGLIM
SPANKYのファンになってくれているのは嬉しいし、光栄なことだし、自信になりますね。

亀本:
だからって、僕らは自分たちがカッコ良いと思うことをやっているだけなんで、例えば1万人のお客さんが集まってくれるんだったら、おじさんでも、女子高生でもいいんですよ。客層は全然気にしてないんですけどね。

松尾:
うんうん。そういうことを気にして曲を作っていたら、魂を100パーセント込められないよね。自分が本気で「この想い伝われよ!」って思っているものしか歌いたくないんで。そこの信念を信じて、根拠のない自信を持って、ずっとやり続けている感じです。

FROGMAN:
そういう想いだから、おじさんや子供たちにも届くんだろうね。
ーーでは、最後のお互いの今後に期待することは?

松尾:
FROGMANさんを見ていると、こんな有名で人気な方なのに、すごく挑戦的なことをされているので、そういうところが私は心底、カッコ良いと思っていて。どうせやるならカッコ良い人とやりたいし、きっと同じ魂を持っていて、握り合える部分があると信じているので、一緒に面白いことを社会に打ち出していきたいですね。

FROGMAN:
GLIM SPANKYはテクニックから何から、もう自分たちのスタイルはできていると思うんで、ずっと続けてほしいだけですね。20年後、30年後のGLIM SPANKY…もっと極端に60年後とか、80をすぎたふたりがどんなロックを奏でるかを見てみたい。

ーーその頃にはシーンも変わってるでしょうね(笑)。

FROGMAN:
ですよね。そんな活躍を家族共々見守っております。

著者:土内 昇/PHOTO:千々岩 友美

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